【物語】空を三等分にするにあたって

原初。混沌。

前も後もなく、上も下もなく、大きいも小さいもなければ、無理も道理もなかった。

セカイは自分自身を見ることができず、未知なる自身におびえていた。

そこで、一人の少年、あるいは少女ともいえる存在を、自らの『目』としてセカイ自身の中に存在せしめた。その者に、セカイは「冒険せよ」と命じた。一本の剣を与えて。

 

目の者は位置をもたなかったため、与えられた剣をどこで振るったのかはわからないが、とにかく振るった。床とそれ以外がどうも分かれたようである。

それから、いろいろと切って分け、切って分けをしていると、ひとつ不思議なことを思うに至った。

 

「自分を切ったらどうなるんだろう」

 

目の者は剣を正面に構えると、振りかぶるようにして勢いよく自分の頭頂に当てた。

 

それでよかった。

 

目の者は少年と少女に分かれた。

「君は僕?」

「あなたは私?」

「たぶんそうだ」

「そうじゃないと思うわ」

「じゃあちがうね」

違った。重要なところは、違うということだ。

「しかし、なぜ少年と少女なのだろう?」

「お兄さんとお姉さんではわかった気になって冒険を切り上げてしまうし、おじさんとおばさんでは途中で息切れしてしまうし、おじいさんとおばあさんでは桃太郎になってしまうからよ」

「納得だ!」

二人は歩き出した。剣は少年が持っていき、気ままに振り回していた。危険という概念の発明以前のことなので、とても安全である。

「ねえ見て、真っグレーの花よ」

「本当だ。木も道も全く同じ色だったから気づかなかったよ」

「持っていきたいから切るわね」

えい、あるいはスティングレイと掛け声をして花を切ると、花は色づき、その植物は草本と木本に分かれた。少女が花の香りを思いっきり嗅ぐ。

「すべての知覚があるわね」

なるほど、違法植物。

そこに聞きなれない声がかかった。

「やい!その花をオレサマによこしな!」

声の正体はティラノサウルスであったため、二人は驚いた。ティラノの両手には木彫りのマシンガンが握られている。恐ろしいものと恐ろしいものを組み合わせているので、大変恐ろしくなっている。

「逃げよう!」

「でもマシンガン持ってる……」

「木彫りのマシンガンの銃弾は絶対どんぐりだから、そんなに怖くないよ」

二人は木々の生い茂る森の中へ逃げ込んだ。後ろからどんぐりが飛んでくる。春にはきっと芽吹く弾。

「あぶなかったね」

危険はここで生まれた。

「すぐ追ってくるんじゃない?どうしよう」

「どうしよう」

二人で悩んだ。そんな中、少年は木の枝を拾った。武器にできるかは怪しいものだ。

「じゃあこれで訓練しよう」

「訓練?」

「すぐ強くなってもいいんだけど、納得できないでしょ?だから練習するんだ。」

「なるほど!」

二人は木の枝で模擬試合をした。

少年が劣勢になったとき、

(負けたら自分は女の子になり、向こうが男の子になる気がする)

という気持ちになった。そしてそれにすごく納得がいくので、負けられない戦いが始まった。

少女が劣勢になったとき、

(これで勝てたらお菓子の王国の女王になれると思えば!)

と自らを奮い立てた。なんだかすごくいい希望だったので力が湧いてきた。すでに周囲の森はお菓子に変わってきていた。

少年は少女に木の棒を弾かれ、取り落として地面に手をついた。

少年は負けじと地面の土を握って投げつけた。

「きゃ」

しかし残念、その土はバレンタインデーに嫌いな奴に贈る毒チョコへと変化していた!

「ちょっと!あんたのせいで視力がゼロになっちゃったじゃないの!」

「視力ゼロって失明なのかな」

幸い、近隣のお菓子の村には目玉のようなキャンディがあったので、もとの目玉をくりぬいてそれをはめ込むことで治した。きっとアメリカ人の魔女が悪ふざけで作ったのだろう。

「甘い涙で泣けるわね」

修行パートが終わったので、次の戦闘は絶対勝てるようになった二人は、ティラノサウルスを逆に探し始めた。血眼になって。血眼と砂糖眼になって。

ティラノサウルスは高低差0.7メートル程度のしょうもない崖にたたずんでいた。手には木彫りの望遠鏡が握られている。レンズもどうせ木彫りなので、そのしょうもない崖の下の石ころがよく見えるくらいなんだろうな。

「恐↑~~~~竜↓ちゃあ~~~~ん!さっきはよくもナメたマネしてくれおうたなあ!」

「うわ!今は武器がないので帰って!」

「自分の武器ぐらいすぐ出せるようにしとかんかい!」

「そんな就活みたいな……じゃ、じゃあ!」

ティラノサウルスは意を決したようにこう言った。

「自分の正体を当てないと攻撃は通りません」

二人は、その謎の納得感に打ちのめされてしまった。やはり、信じてしまったものに逆らえない。

「フハハハハ!オレサマにはお前たちのようなザコの攻撃など効かぬわ!」

態度が絶滅前みたいにデカくなった。少年は木の棒を念のため投げつけると、恐竜色のバリアに弾かれ、木の棒は環境にいいんだか悪いんだかわからない割り箸へと変わってしまった。

「でもそれって私たちに勝てる理由にはなりませんよね?」

「ぐ、確かに、逃げます」

ティラノサウルスはドシドシ逃げた。ご応募以外のドシドシを見るのは初めてか?

その後、

  • 追う
  • 途中で洞窟を発見
  • 洞窟に入る←なんで?
  • 洞窟内で凍ったマンモスを発見したので、火をおこし解凍

したがってマンモスが動き出し、喋り始めた。

「おれのなまえを……よんでほしい……」

「あなたの名前は?」

「いってらっしゃマンモス……」

「は?」

「いってらっしゃマンモス……」

「どういうこと?」

「いってらっしゃマンモス……」

「わかった!あなたいってきマンモスの対概念でしょ!」

「そう……でも言葉的なつながりがキモくて絶滅しちゃった……」

「かわいそうね……」

「いってらっしゃマンモス!僕たちを乗せていってよ!追いかけたいヤツがいるんだ!」

 

乗り物に乗って、遅くなることはない。よって二人は速くなった。ティラノサウルスもさすがに逃げ切れない。

「逃げきれないぞ!観念しろ!」

「くっ、しかしバリアがあるぞ!」

バリアの数だけ強くなれるよ、という歌がある。気がする。

「お前の正体を見破ったぞ!」

「何!けどハッタリということもありうる!」

「お前の正体は、金、焼きすぎた餅、往復書簡、パイロキネシス、明けの明星、松下幸之助、グレイテストヒッツ、学ラン、ルリビタキ、抱擁、……」

「事物の全列挙で当てようとしてやがる!ハハハ」

「私も全列挙したら早いのかしら、でも私は彼と違う、違うやり方で当てる!」

少女は考えた。

(剣を振って分け生まれたもののなかにアイツはいなかった、じゃあ原初の存在?セカイそのもの?じゃあ冒険の妨害はしないはず……)

理性の誕生である。

(私たちと同じ、納得力で目の前の出来事を変えているのは間違いない……本当にそう?)

理性と懐疑は、仲の良い兄弟となるだろう。

(私たちとは違う、でも近い力なはず~~~!)

「購入履歴、落雁、巻き舌、シャボン玉、祭り、捕鯨船……ッ!」

「待ってやる必要はないな!ティラノサウルスのスは複数形!」

分身したティラノが少年に襲い掛かる!

「ぶおー……!そうはさせたくのなさがある……!」

ティラノサウルスは突然の大質量に押しのけられた。

「いってらっしゃマンモス!」

「仲間……連れてきた……」

おかえマンモスを筆頭に、おはよチワワとこんばんチワワ、いいよサイなどつながりがキモい名前の動物たちの姿が!

「ここは……おれたちが時間を稼ぐから……」

「ありがとう!直角、モース硬度、ベンタブラック、プーさん、キャロライナリーパー、ホンドタヌキ……」

「ありがとう!私も考える!」

(考えて!考えて!)

ティラノサウルスは肉食恐竜なのでデカくて強い!フン!これで分身体もすべて強化だ!」

「おれたちが相手だ……!時間稼ぎで終わってもいい……!」

(考えて!考えて!って脳内で自分で言ってるときってあんま思考すすまないわよねえ、実際。というかリラックスしたほうが頭回るんじゃないかしら。いやいやそんなこと考えてる場合じゃない、ええと、だから私たちと近い力で、その、一貫性?を無視しているってこと?よね?それで、私たちは私たちに都合のいいものをつくっていて、アイツは私たちに都合の悪いものをつくっていて……それだけじゃ足りない!)

「グヒャヒャ!マンモスを齧ると毛が口に散らばってしまうんだなあ!初めて知ったぜ」

「お前の歯は肉まで到達していない……!」

「着やせ我慢を!次で食べてやる!」

「般若、逗留、ロマネコンティ、大地の龍玉、ソフトシェルクラブ、サンダガ……」

(そう、最初に会ったとき!花を奪おうとしてきた!嫌がったらどんぐりを撃ってきた!ひどいのよ!わたしたちにはない、ひどさがある!ダメなのに、ダメだって言えないようにするところ!それよ!だから正体は……)

モーモーファーム膵臓、非常勤講師、あぶらとり紙、ポンペイ……」

 

「「不条理!!」」

 

バリアが、割れた。ティラノサウルスの余裕ぶった表情が一瞬にして抜け落ちる。

「まぬけーっっ!」

少年の右フックがぶち当たり、KOとなった。

 

 

 

「ねえ、空がグレーだとつまんなくない?」

「じゃあ何色にしたい?」

「赤かな!」

「赤こわくない?」

「そういう赤じゃなくて、あったかい赤。」

「それならいいね」

「あなたはどうしたい?」

「うーん、青かな?」

「それって機械がだめになったときみたいじゃん」

「もっとやさしい青だよ」

「じゃあいいね」

「半分ずつにする?」

「そうしよう」

「オレサマは黒がいい」

「あ、起きた、じゃあ三等分ね」

「三等分できる?」

「自信ないかも」

「オレサマにやらせろ」

「え!まあいいけど、少なかったら怒るよ」

「えい!とりゃ!」

「うあ、黒半分くらいあるじゃん、ずるじゃん」

「わかったよ、こっちがわも赤にする」

「まあこれなら……」

朝焼け、夜、夕焼け、昼。それらはこうして生まれた。

彼らは、過去から現在までを冒険したが、未来には入らないことにした。そのほうがワクワクするし、想像力が膨らむからね。