【物語】透明人間の正体は?

透明人間とは、見ること能わず、しかし何やら動いて何事かをなすもの。薬でなるのか魔法でなるのか、はたまたトリックでなるものか。これは決してミステリーではありませんが、少しだけ考えて読んでいただければいいなと思っております。

 

 

茶色のコートにハンチング、数十年前の新聞記者のような恰好の男が一人、車道の途切れた山中をのそのそ歩いていた。

「ほんとうにこんな山ン中にあるんですかねえ。僕はそろそろ不安になってきましたよ」

独り言ではない。彼の懐から一羽のルリコンゴウインコがスウと顔を出し、

「なければ帰るだけだぜ」

と言うと、男はあきれた表情で、

「そりゃあきみは飛んで帰るだろうけど、僕は歩きですからね、夜になったら怖いんですよ山は」

と不平を言った。

「わかったよ、それなら帰りまで一緒だぜ、相棒」

「ほんとうですよ、真剣ですよ、約束ですよ」

「わかったわかった、おまえ、狼のくせにだいぶと臆病じゃないか」

男が帽子を外して軽く湿気を払うと、つややかな白い毛並みと、彼の目元の灰色とも水色ともいえそうな丸い模様が木漏れ日に照った。

「都会の狼には山は合いませんから」

 

「ありましたねえ」

「あったなあ」

彼らの目の前には門、庭、そして豪華な屋敷があった。ゴシック建築というのか、なんというのかはわからないが、おとぎ話か何かに出てきそうな、絶妙な凹凸造形によって気品を醸し出している邸宅である。

「これは、腕利きの仕事ですよ。しかもこんな山奥だ、資材を運ぶのも麓とはわけが違う。我々を招待したのは、きっと……」

「大金持ち!そうだろ?きっと大粒の揚げ麦を出してくれるぜ」

「きみは食いしん坊ですね、しかし気持ちはわかります」

庭の芝生を二つに分ける薄橙色のタイル道はまっすぐ屋敷に向かって伸び案内している。

「だけど不思議だよなあ、上から見たときは屋敷も庭も、全く見えなかった。金持ちだと姿まで隠せるのか?」

トコトコあるいて、玄関扉にはライオンが輪っかをくわえた形のドアノッカーがあるのが見えた。こういうものは輪っかが少し重たく金属でできており、重厚なる扉を手でノックする代わりにこれを動かしてドアに打ちつけ、来訪を伝えるのである。

であるから、ドアノッカーがガラス製であってはいけない。打ちつければひとたびに割れてしまうし、来客の手を傷つける恐れがある。

「大丈夫か?怪我はないか?手を見せてみろ」

「大丈夫です、手袋をしていました」

「全くふざけた屋敷だな、これで弁償しろなどと言ったら目ン玉突ついてやる」

「まあまあ」

すると、扉がガチャリと音をたて、ゆっくりと開いた。

「ああ、いらっしゃいませ」

出てきたのは普通の執事だった。全く普通で、そうですね、あなたが想像する執事の中で最も普通の、いや登場人物が獣だったから獣の執事のほうが普通だとかそういう余計なことは考えなくていいんですよ、とにかく普通、普通にしていればいいんですよ、なんでそれができないかなあ、普通の執事ってそんなに難しいかなあ、どこが難しいか言ってごらん?イデアがどうとかそういうことを考えるなってだから、自分で問題をややこしくすることばかり得意だね君というやつは。全く。とにかく普通の!執事が出てきたの!

「いらっしゃいませじゃないんだよ!なんだよこれは!」

「はて、どっちのことでしょうか」

「どっちとかじゃねえだろ!」

「いやあのですね、今日お招きいただいて来たんですがね、これ、ドアノッカーが割れましてね」

「大変失礼いたしました。お怪我はありませんか?」

「大丈夫なんですけどね、ちょっと気になってね、なんでガラス製なのかなって」

「そちらはですね、当屋敷の主人風の男のご意向で、『なんか毎回ドアノッカー引っ張ってドア開けちゃうなあ、もうそれ用にしよう、それ用以外で使えないようにガラス製にもしよう』ということになりまして、そうなっております」

「カスだな」

「おっしゃるとおりです」

 

屋敷に入れてもらい、案内された部屋にはすでに先客が千客いた。

まず目についたのは身長の高いトウガラシ。ただ単に背丈があるだけでなく、オーラのようなものを感じる。壁際で遠くを見るようにぼーっとしている。次にこれまた身長の高いカバ。タキシードを着て歓談している。その周りにリボンを付けたロールペーパーの若い子たちが二人、牛の獣人が一人、鉄パイプが四人、松本人志のスキャンダルで行き場を失った松本人志のモノマネ芸人が二人、プチトマトが5人、いや、皿の上にあるからあれは食べ物のほうだ、訂正。あとカメレオンの男が一人、人間の男が一人、巨乳がいっぱいいて、部屋の九割をゾウが占めている。それから電卓が五人、隠れていて見えなかったが追加で人間の男が三人、白い髪の少女が一人、液状の犬が一体、ワインが五本、失礼、ワインは飲み物だった。また間違えてしまった。それから、時計の頭をした人物が三人、もう列挙したくない気持ちがひとつ。

「……にぎやかだね」

「あのトウガラシ、オレ見たことあるぜ、俳優だよ」

「知りませんね」

「まあオレも演技を見たことはないが、本書いてた。『チリ・アクターと呼ばないで』とかいうタイトルでさ、目を引くやつだからよ」

「なるほど、有名人やお金持ちが集まるパーティーですか、ならなおさら僕たちが招待された理由がわかりませんね」

「さあな、早く説明してほしいぜ」

 

「キャーッ!」

ブレーキ音とも聞きまごう女性の悲鳴が廊下から聞こえてきた。会場は騒がしくなり、ドタドタ、ドタドタドタドタドタドタドタドタと人々が駆けだす。飲まれるようにして廊下へ出るとそこには、

包丁が刺さった包丁の死体があった。

遺体はローブを身にまとって仰向けとなり、はだけた腹部から包丁が生えているような様子である。

「執事はどこだ!」

「ここでございます、ここでございます、みなさま、何が……」

執事は息をのんだ。

「執事さん、この包丁は誰ですか?」

「こ、これは、当屋敷の主人風の男でございます。ああ、なんと、」

「すぐに救急車を呼ぼう」

「ですがしかし、外は嵐で大雪で橋が落ちて土砂崩れで道がふさがってしかも屋敷のあらゆる出口がロックされています!これでは誰もここに来ることはできません」

「おい嘘だろ!」

客たちは各々窓や玄関に向かい、脱出を試みるがガッチリ閉まっていて開かない。外がさっきの晴天と打って変わって猛吹雪なのも見てとれた。

 

しかし、執事は落ち着きを取り戻し、

「残念ですが、ここで彼の出産を手伝わざるを得ません」

と言った。

「は?」

主人風の男のほうを見ると、荒く息をして、包丁が伸びている。

つまり、彼を刺した犯人が存在して、それが無数の客の中の誰かで、主人公の狼獣人、博打午後郎(ばくち ごごろう)くんと相棒のルリコンゴウインコのアンラクちゃんとが強力して手がかりをもとにそれを調べ上げて推理して、そうかわかったぞ!となって、関係者を一堂に集め、この中に犯人がいると宣言して、デッケエなんかドアがギーって閉まってCMやって、犯人を当てて、逃げ出したところを追いかけてチェイスして、犯人を崖際に追い詰めて、いいこと言って泣かせて捕縛する、ということはないのであった。屋敷の主人風の男は無性生殖で増えているだけである。

要するに、犯人はそもそも存在しなかったのだった。

おわり。

 

 

 

この物語は死にました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなのメチャクチャじゃないですか!」

博打くんが叫ぶ。

「だってしょうがないぜ、オレたちの出る幕なんかなかったんだから」

「うう、すべてを見通した雰囲気を出しながら真犯人と会話して真犯人を不安に陥れるやつとかやりたかったのに」

「元気出しなよ、それにまだオレたちの活躍だってあるかもしれないぜ」

「……」

「この作品だって無駄じゃないさ、オレが女の子だってわかって喜んでるやつもいるかもしれない」

「!」

「お前?」

「そうだよ、まだ終わってない!」

「何をするつもりなんだよ?」

「『探偵』をやるのさ。ついてきて。」

 

 

 

 

「まず、被害者はこの作品そのものだった。スタンダードなミステリーに準えて面白おかしくしようという矢先、この事件が起こったんです」

「あー、オレついていけねえよ」

「だが明らかにおかしなことが起こった、これです」

 

であるから、ドアノッカーがガラス製であってはいけない。打ちつければひとたびに割れてしまうし、来客の手を傷つける恐れがある。

 

「ああ、ガラスのドアノッカーのくだりだな、覚えてるぜ、オレもおかしいと思ったよ」

「ええ、ですがそれまでの書き方を見てみましょう」

 

トコトコあるいて、玄関扉にはライオンが輪っかをくわえた形のドアノッカーがあるのが見えた。こういうものは輪っかが少し重たく金属でできており、重厚なる扉を手でノックする代わりにこれを動かしてドアに打ちつけ、来訪を伝えるのである。

 

「細かく説明してるなあ」

「そうです、状況を丁寧に説明しています。冒頭部からここまで、ずっと純文学の風体を装おうとしています」

「だがよ、ギャップを生み出すためにはそれくらいのことはするんじゃねえのか?」

「ここまでを読めば、そうかもしれません。ですが次のくだりを読んでください」

 

出てきたのは普通の執事だった。全く普通で、そうですね、あなたが想像する執事の中で最も普通の、いや登場人物が獣だったから獣の執事のほうが普通だとかそういう余計なことは考えなくていいんですよ、とにかく普通、普通にしていればいいんですよ、なんでそれができないかなあ、普通の執事ってそんなに難しいかなあ、どこが難しいか言ってごらん?イデアがどうとかそういうことを考えるなってだから、自分で問題をややこしくすることばかり得意だね君というやつは。全く。とにかく普通の!執事が出てきたの!

「これは、ひどいな……」

「ええ、明らかに悪意のある文章です」

「作品が被害者だって意味が分かる気がするぜ」

「そうです、そして犯人は作者であることもわかります。その上、作者は作品を通して読者を刺したかったということも窺えます」

「作品を作るってことだから、そういう気持ちはわかるけどよ、でももっとやりようはあったんじゃねえのかなって思うぜ。人がなんか嫌な気持ちになる文章で刺そうなんて、な」

「それ以降の文章は支離滅裂です。なにも意味が解りません」

「おっ、名探偵も匙を投げたか」

「文章の内容がわからなくても、意図を読むことはできます。やってみましょう」

 

屋敷に入れてもらい、案内された部屋にはすでに先客が千客いた。

まず目についたのは身長の高いトウガラシ。ただ単に背丈があるだけでなく、オーラのようなものを感じる。壁際で遠くを見るようにぼーっとしている。次にこれまた身長の高いカバ。タキシードを着て歓談している。その周りにリボンを付けたロールペーパーの若い子たちが二人、牛の獣人が一人、鉄パイプが四人、松本人志のスキャンダルで行き場を失った松本人志のモノマネ芸人が二人、プチトマトが5人、いや、皿の上にあるからあれは食べ物のほうだ、訂正。あとカメレオンの男が一人、人間の男が一人、巨乳がいっぱいいて、部屋の九割をゾウが占めている。それから電卓が五人、隠れていて見えなかったが追加で人間の男が三人、白い髪の少女が一人、液状の犬が一体、ワインが五本、失礼、ワインは飲み物だった。また間違えてしまった。それから、時計の頭をした人物が三人、もう列挙したくない気持ちがひとつ。

「先客が千客、からだいぶやりたい放題しているな」

「そうです、ですがここに『伏線になるはずだったもの』がいくつかあるのがわかります」

「たとえば?」

「『カメレオンの男』『白い髪の少女』『液状の犬』これらは透明人間の正体としてふさわしそうな感じがあります」

「『トウガラシの俳優』はダメなのか?良く描写されてるぜ」

「あれはダメです、チリ・アクターって言いたかっただけなのが明らかです」

「そうかあ」

「彼らは透明人間の正体、またはそのミスリードとして書かれたに違いありません」

「じゃあその誰かが犯人、ってことか」

「正確には”犯人として描写される予定だった”ということです。ですが、まだ、その候補者がいますよ」

「『執事』か?犯行を行えそうなのはそいつくらいだろ?」

「それは犯人に直接聞いてみましょう」

 

こんにちは、とふろんと申します。ここまで読んでいただきありがとうございます。

「もう一人の犯人候補って誰だ!」

作品を通さず自分で直接ネタバラシするの恥ずかしいから言いたくありません。

「まあまあ。一つ聞きたいんですが、『屋敷の主人風の男』とかたくなに表記していますね、『主人』ではダメだったのですか?」

ダメでした。そう書く必要があった。

「つまり、ほかに『主人』に当たる人物がいた、そういうわけですね?」

はい。

「わかった、『執事』だろ!」

いいえ。

「キーッ!(威嚇)」

「落ち着いてください。この作品にはヒントが隠されていました。ごくわずかにですが」

「もったいぶるなよ」

「屋敷の主人は、『屋敷』だった」

「は?」

正解です。

「は~~?」

「屋敷の主人であるはずの男が、ずっと屋敷の主人風の男と書かれている。執事はロックされた家を開けられない。あとはみんな客ばかり。そしてその客、とても多様でしょう?」

「そういえば無生物までいたな」

「そうです。であれば、屋敷そのものにも意識が芽生えていてもおかしくありません。我々のように、意識をもって我々が我々自身を主人とするように、屋敷も、屋敷自身を主人とする、ということですよ。だから最後の犯人候補は『屋敷』です」

名探偵でもないと読み解けない文章書いて申し訳ない。

「それはちがいますよ」

励ましてもらえるの?自分の作品の登場人物に?

「私が言いたいのはですね、この作品は、書いていて嫌になって、何度も下書き送りになって、執筆が長期化した結果、ズタズタの支離滅裂になってしまった、ということです」

書いていて涙が出る。

「ひどい話だが、なんだか陳腐だな」

「この事件は、執筆の勢いが足らなかったがゆえに起こった、悲しい事故なのかもしれません」

 

ここまで読みやがって、この野郎、自分で自分を見つめ直したりするのは一人でやるべきだよ、もう恥ずかしい。帰れ!別の記事でも読んでろ!

 

無玉の交換という考え方

あるツイートを見た。

ここに登場するエーレンフェストの壺という状況を見て、カルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』を思い出した。

時間は存在しない | カルロ・ロヴェッリ, 冨永 星 |本 | 通販 | Amazon

この本にあったようなことを一部思い出すと、確かこうである。

「時間の向きはエントロピーの増大則によって与えられるが、エントロピーの増大則は人間の解像度が低いからそういう風に見えるだけ」

あと、例えとして、

「トランプ52枚を、上半分は赤のスート、下半分は黒のスートとなるように積んで、シャッフルしていくとどんどん混ざっていく。元の状態になることは確率的にほとんどない。このような状況がエントロピーの不可逆な増大の様子として挙げられるが、スートと数字ですべてのカードを区別すれば、すべての状態が全く異なる。最初の赤黒の状態が綺麗な並びで、シャッフル後の並びが乱雑であるというのは恣意的な見方である。全部同じような並びだ。」

みたいなことを言っていた気がする。正しくないかもしれないが、大体そんな感じだったはずだ。この論法をエーレンフェストの壺について適用しようとすると、難しい。ここからは自力で考えた。

二つの壺の中の玉を、左側の壺にまず全部入れる。玉に番号を振る。ルーレットで番号を出し、対応する玉をもう一方の壺に移動することとすると、どんどん壺の中の玉の数は半分づつに近づく。元の状態に近づくことは確率的にほとんどない。

ここまではいい。だが、最初の状態が恣意的で、半分づつ状態と同じだというのは何か変だ。赤のスートと黒のスートで言えば、黒のスートのカードが全部無くなったような状況である。

なので黒のスートのカードがあるものと考える。すなわち、最初に右の壺に同じ数の透明な玉が入っていて、玉の移動はその透明な玉との交換である、とするのである。すると両壺の中の玉の個数は移動によらずずっと一定である。

 

なんかおかしい気がする。なんだよ透明な玉って。無玉と呼ぶことにするけど。それにしたって、本当の玉と無玉を両方数えることの正当性ないだろ。

本に書いてあったことから頑張って解釈すると、我々は物理的な制約のせいでトランプの赤と黒というおおざっぱな区別をしてしまうように、我々は物理的な制約のせいで玉と無玉の区別をしてしまう。みたいな感じだ。我々が無玉でキャッチボールできないせいで時間が存在してしまう!

 

いややっぱおかしいよ。

赤と黒の区別は、それぞれのカードの完全な区別より確かにおおざっぱだが、別に解像度(たしか本にあった)が上がったわけではなくないか?

つまり、それぞれのカードを完全に区別できるときに、カードを赤と黒に区別して見ることができるなら解像度はカードを赤と黒に区別できるときよりカードを完全に区別できるほうが上、と言えるが、トランプの例では全部の状態を同じように扱わねばならない。すなわち、カードを完全に区別した上で、赤と黒という見方を捨てなければならない。これでは解像度が上がっているとはいえない。本の主張とは反対になるが、むしろ解像度が下がっていると言ったほうがいい。すべての状態を同じようなものとして扱うのであるから。

さらに言えば、エーレンフェストの壺においては玉と無玉の区別も捨てることになる。あーあ、おれが無理に論法をゴリ押ししたせいで有と無の区別がつかなくなってしまいました。

この論法をそのまま拡張すれば、0と1の区別もつきません。おまえとおれの区別もつきません。オーマイブッダ

存在の記述方式の提案 - とふろんが何度も同じことを考えないで済むためのブログ

この考え方で有と無が区別できないことを考えれば、なんにもなくてもなんでもできるし、何が起こってもおかしくないという感じになる。自然の斉一性もぶっ壊れる。まあ時間概念を破壊しようとしたらこれぐらいぶっ壊れるのもしょうがないね。

Chu!人類破壊爆弾

ハロー!未来!それは手を振って迎えてあげたほうがいい。来ないでと言う人のところへ行かなきゃならないのは、未来だってつらいだろう。

 

「ただいま~、っつっても誰もいないけど、マイホームにただいま~」

ドアをゆっくり閉じると、自分は恐ろしき世間から身を隠すことができたという感覚になる。物理的な感覚と精神的な感覚は絡み合っている。

「ん?マイホームなのか?部屋借りてるんだからマイルームなのか?」

どうでもいいことを呟きながら習慣化された動きでコンビニ弁当をレジ袋から出し、レンジに放り込む。

三分半を待つ間、レジ袋にあるもう一つのことを思う。気分が上がってきた!取り出す!

「ひょほほ」

恋愛シミュレーション料理ゲーム『Skyrarc』だ。最近はパッケージ版のゲーム自体を見なくなったけど、なんとなく入ったショップでふと見つけたのだ。

 

 

「う、うう、まさかあのネックレスにミカゲちゃんの魂が残ってたなんて……」

ひとしきり泣いて、涙をぬぐって、スタッフロールを眺める。少し落ち着いて、窓から日の出てきた空を見る。

「もう寝るか」

 

 

攻略サイト見て別ルート周回し始めると、ゲームって感じになってくるな」

身勝手なものかもしれない。自分で攻略サイトを見始めたのに、それで矮小化する印象に文句を言っている。昨日まで人間だと思っていたものがキャラクターになり、空間だと思っていたものが背景絵になり、そして彼女らの意志はスクリプトに見えてくる。

「やめだ、これ以上進めないほうが良い体験として残せる」

セーブもせずにゲーム機の電源を落とし、布団に寝っ転がる。体験型のゲームじゃないとダメな身体になってしまったのかもしれない。フルダイブVRヘッドセットを手に取る。すっ飛んできた近未来はこんなコンパクトに収まってしまった。まあ、いいゲームがないのでこいつは俺の望みを叶えてくれない。最近は遠隔講義とか資格取得の道具に成り下がっている。脳みそに大学が来てくれて俺は嬉しいよ、全く。

少し早い時間だがVキャンパスに入っておく。友人がいれば暇をつぶせるだろう。

Vキャンパスのいいところは、坂が多くないし、銀杏臭くないし、外部の変な人間が入ってこないところだ。内部の変な人間はたくさん出てくるのは相変わらずだが。まあ、歩き回るとおもしろいものが見れて良い、例えば、変なサークルに勧誘している人たち、デッケェ彫刻を制作している人、夜光る池に住む夜光る鯉、路上で寝ている学部一年生……

路上で寝ている学部一年生はマズイ。Vキャンパス慣れしてない子かもしれない。金縛りライクな症状になることがまれにあって、精神的にキツイらしい。起こしてやらないと。

「おい、大丈夫か?ただ寝てるだけか?」

「……」

強制的に退出させて起こすしかないか。

「ッ起きろッ!」

暴力!原初にして至高の万能解決法で退出させる。

「ふー、人助けになったかな」

少し休んでいると、メッセージが飛んできた。水色のウィンドウで目の前に表示される。

『先ほどはありがとうございました。動けなかったので助かりました。』

「これだから人助けはやめらんねえぜ」

そろそろ講義の時間だな。行くか。

 

 

一般的に、フルダイブで金縛りになるのは数パーセントの人々であり、それも初心者に限られる。そして、一度うまく入れればそれ以降は脳がコツを覚えて金縛りになりにくい、とされている。なので同じ人物が同じ場所で昨日と同じようにT字のポーズで寝ているのは、おかしいことだ。

「お前これ苦手か?」

「……」

 

『昨日に続いて、ありがとうございました。』

今日はメッセージを返すことにする。

『あんまり苦手そうならうまくいくまで付き合うよ。』

『いいんですか!?じゃあ、お願いします。』

 

ログインして、動けなさそうならブン殴って強制ログアウト。またログイン。繰り返してて思った、マネキンみたいな初期アバターだから今はわからないが、もしこの子が女の子だったら俺はかなり気に病んでしまうかもしれないな。

ログイン。T字で寝ている。よーし7回目、張り切ってブン殴っちゃうぞ。

「待って!」

目の前に手が伸びてきた。思わず後ずさりすると、その子はゆっくりと手足を動かして、立ち上がろうとした。生まれたての小鹿みたいな感じだ。手を取って助けてやる。

「あはは、やった!ありがとうございます!」

「おーやったな!歩けるか?」

「はい、もう大丈夫です!」

「良かった。アバターの変え方はわかるか?メニューをこうやって出して……」

「あ、はい、できました!とりあえず本人アバターにしますね!」

マネキン姿の初期アバターはみるみるうちにかわいい茶髪のギャルに変わっていった。そして俺はおそらくみるみるうちに罪悪感で青くなっていっているだろう。

「……悪いな、さっきは遠慮なく殴りまくっちゃって」

「へ?いやむしろ殴ってもらって助かったんですよ?気にしないでください!」

「安心した、ありがとな」

「ところで、先輩?でいいんですよね?わたしはミーケっていいます!新入生です!」

Vキャンパスではハンドルネームで呼ばれたい奴、多いからな。

「ミーケちゃんね。俺は杓筅(しゃくせん)三年生だ。よろしくな!」

「あの、おすすめのサークルってありますか?」

「あー、俺は俳句・短歌同好会に入ってるけど、興味ある?」

興味のあるなしが分かれるから、俺は割と控えめに勧誘するタイプだ。

「興味あります!入りたいです!」

「お、おお、そんなにか、じゃあ講義終わったらでいいからルーム来てよ。はいこれ部屋ID」

 

「でもさあ、ピンチのときに助けてくれた人ってさあ?カッコよく見えるじゃあん?惚れられてるぜ、お前」

俳句・短歌同好会の部室で、友人のヨシと駄弁っている。コイツも女アバターだが、おそらく男。美的センスがイカれており、ビールの空き缶とパンパンのゴミ袋で一杯の部屋が美しいと信じて部室の一角を侵飾している。一緒に破滅しよう的な句を詠みがち。

「そんな簡単に惚れられたりしないよ、逆はあってもさ」

「えー?じゃあ惚れたんだあ」

「いや、そういう意味じゃなくて、」

コンコン、ドアがノックされる。

「入っていいよお」

「お邪魔しまーす!」

ヨシがこっちを向いてコソっと

「この子?」

「そう」

俺は立ち上がってミーケちゃんを部屋の真ん中に連れてくる。

「紹介しよう。こいつはヨシ。俺と同学年の汚い女だ。」

「ひどいぜ、ひどすぎて涙が出る」

「よろしくおねがいします!ミーケです!」

「あと二人くらい本来なら居るんだけど、まあ今日はいいか」

 

「それでさ、ずっと皿洗いしてなかったわけ。そしたらなんか皿が腐ってきてさ……」

「腐食系の能力者?」

「あはははは!」

三人で談笑したり、

 

「ささやき声に秋の虫の音混じりけり。どうですか?先輩」

「”声”いらないかな」

「ささやきに秋の虫の音混じりけり」

「ん。このほうがリズムがいいよ」

「ありがとうございます!」

二人で句を作ったり。

「あの、先輩、うちのラボに来てみませんか?」

「え?一年生なのに研究室入ってるの?」

「えへっと、まあ、そうですね?」

「うん、見てみたい。専攻が確か物理系なんだっけ」

「はい、ほとんど工学なんですけど」

「てことはリアルキャンパスだ」

 

 

リアルキャンパスに来たのは久しぶりだ。前来た時にはない建物が建っている。Vキャンパスに入り浸っているとこっちにも人がいることを忘れそうになるのはよくないな。

「ミーケちゃんが言ってたのはあの建物か、知らないビルヂング2号だな」

二重の自動ドアのある建物。二枚目のドアが開かなかった。

「え、なんかカードいるやつか?」

周りを見ると、呼び出しボタンと数字キーのある台があった。

「あーマンションとかのシステムね」

ミーケちゃんに教えてもらった番号を押し、呼び出しボタンを押す。

「もしもし?ここは普通の人間が入っていいところじゃないんですけど」

幼い女の子の声がする。

これマジで人んちか?異様な状況だ。天才ハカセちゃんなのだろうか?

「あの~、ミーケって子に誘わ…」

「あー!お姉ちゃんが言ってた人ねー、今開ける」

ドアが開いた。

姉妹で天才ハカセちゃん、ということか。なるほどな?

 

一階と二階は普通の研究室が並んでいそうな感じだが、三階は異様だ。急に人の気配がしなくなった。目的の部屋の前についた。おそらくミーケちゃんがいるところだ。

コンコン、ドアをノックする。

「入っていいですよお」

「お邪魔しまーす……」

ドアを開けると顔があった。

「うわっ」

可愛い顔だがびっくりした。Vキャンパスで見たミーケの顔だ。

「うふふ、いらっしゃいませ~。入って入って~」

なんだかよくわかんねえ機械がいっぱい並んで、あらゆる棚を埋め、その棚の上を埋め、机に溢れている。

「それにしても驚いたよ、君たち天才姉妹なんだね?」

「えへっ、それ誰に聞いたの?」

「君の妹が入り口のドアを開けてくれたんだよ」

「あー、そういうこと……」

ミーケは少し悲しそうに微笑んだ。

「実はね、先輩に伝えたいことがふたつ、あるの。」

少し俯いて、体の前で手を小さく組んだり組み直したりしている。

「私ね、先輩のことが……あなたのことが好きです。」

 

自分の芯がキュッと細くなったような感覚、その中をものすごい勢いで血流が流れていく感覚。すごくいろんなことを考えているようで、何も考えられない一瞬。

「ミーケちゃん、俺は……」

「待って、もういっこ、言わないとダメ。」

 

「私は、ロボットなんです。人間ではありません。」

徐に服を捲り、腹部の肌を見せる。まだ人間のように見えるが、わき腹が四角く切り取られたように開いた。

内部は1677万色に光っている。

「ゲーミングお腹だ……」

「今まで騙していて本当にごめんなさい。でも、騙したまま付き合おうとするのは良くないと思って」

「俺の気持ちは、もう決まってる。君がロボットでも関係ない。むしろ良い。むしろ良いはダメか。」

「ダメじゃない、嬉しい!」

俺はミーケを抱きしめた。ロボットでも温かいんだな。排熱かな。

ミーケと見つめあう。気持ちが通じ合っているのがわかる。次に何をすべきか。ただ見つめるだけでは。

 

「ああああーーーー!?!?!!!ママーーーー!!!!!ママーーーーーー!!!!!!!!!!お゛姉゛ち゛ゃ゛ん゛が゛チ゛ュ゛ー゛し゛て゛る゛よ゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」

「え!?!?妹ちゃん!?」

「ちょっ、ナーリン待ちなさい!」

ミーケは部屋を飛び出してナーリンちゃんを追いかけて行ってしまった。行ってしまったじゃない、俺も追いかけないと。

廊下を出るともう二人の姿はない。耳を澄ますと、廊下の奥から少し声が聞こえた気がした。

 

「お邪魔しま~……」

恐る恐るドアを開けると、そこには円柱型の水槽に巨大な脳が浮いており、ポコポコと泡の出ているオブジェがあった。

「絶対マザーコンピューターだ……!」

「正解です。学籍番号018823349。ミーケとナーリンの母にしてこの研究区域の管理者、マザーコンピュータです。あなたのことは知っていますよ」

「て、えっと、二人は?」

「安心して。二人は別の部屋に居ます。ちょうど今ミーケがナーリンに腕ひしぎ十字固めを試みているところです」

「ああ……そう……」

「あとミーケと別れてください」

「え?ちょ、急ですし、嫌です」

「そう言うと思いました。実はミーケはあなたに恋してはいません」

「いや、でもさっき告白……されたし……」

「ミーケには恋をする機能はありませんから。ただ感情模倣機構があるだけです。相手の感情を各センサの情報をもとに推定し、自分自身に似たような状態を作り出す。相手が怒れば自分も怒り、相手が楽しそうにしていれば、自分も楽しそうにする。あなたを真似て、感情情報を得ていただけ。」

「それってつまり……」

「繰り返しますが、ミーケはあなたに恋してはいません。あなたがミーケに恋していただけ。それだけなのです。そして、恋愛は悲しいトラブルの元。倫理規定に基づいて、ミーケから離れてください」

「俺は……ただデータ収集に使われただけ……」

「もちろん、報奨として1000円分のナイルギフトカードをプレゼントします」

「ハハ……1000円ね……」

「それ以上は規定によりお支払いすることが難しいのですが、特別に当大学のマスコットグッズなら、」

 

「いらない」

「そうですか。失礼いたしました」

「報奨もいらない。俺はミーケを盗む。」

「なるほど。あなたはロボに興奮する変態というわけですね。警備員を呼びました」

俺はドアを蹴り開けて廊下へ飛び出す。

「先輩!こっち!」

ミーケが廊下の十字路の左側から呼んでいる。事情は理解しているようだ。

「こっちの先に外へ出られる扉があるの!」

ミーケと廊下を全力疾走する。大学って校則違反とかないよな?

「さっきはありがとね。嬉しかった。二回も”別れたくない”って言ってくれた」

「まさか全部聞いてたのか?それだけじゃないぞ、俺は君を盗むんだ」

「ふふ、喜んで」

 

廊下の先には扉があった。開けると何もなかった。ここ三階だけど何用の扉?自害用?少なくとも俺たちにとっては脱出用の扉といえるか。

「横の雨樋にしがみついて降りよう」

「わかった。でも私は大丈夫だから」

そう言うとミーケは茂った植栽に飛び込んだ。

「わーお」

俺も急いで雨樋を下りて振り返ると警備員が二人いた。なんか腰が引けてる。

「おとなしくしてください!」

しませぇん!

ミーケがこっちに言う。

「ごめんなさい、わたし人間に攻撃できなくて」

「じゃあ2対1か、きついな」

「お姉ちゃん!私を忘れてませんか!」

「ナーリンちゃん!?」「ナーリン!なんで?」

「お姉ちゃん、本気で恋してるんだよね?私、お姉ちゃんの本気のkissで目覚めちゃったみたいです。私はお姉ちゃんを応援したい。だからここは私にまかせて!」

「でもナーリンだって人間には攻撃できないはず……!」

「『引き倒して腕ひしぎ十字固め』は!姉妹におけるじゃれあい程度に!すぎないため!攻撃とは!みなされないアターック!今のうちに逃げて!」

「相手が一人なら逃げられる!ミーケ!」

「はい!」

手をつないで走った。忙しない手繋ぎデートだぜ。あとミーケのほうが速いぜ。

 

電車に乗れた。とりあえず、ここまでくれば変装とかやりようはある。

「これからどうしよう」

「国外は確定でしょ?」

「そうだよなあ」

 

 

 

 

 

「そういえばさ、俺が寝てる間もほとんどミーケは起きてるわけじゃん、何してるの?」

俺たちは今、カナダの森の地下にシェルターを作って住んでいる。

「んふふ、気になっちゃう?実はね、ちょっとしたサプライズプレゼントを作ってるの」

あの日からかなり時間が経った。変わったことと言えば、俺が密猟者に間違えられて左足を撃たれて、ミーケ特製の義足を使っていることかな。

「サプライズプレゼントって、俺に言っていいの?」

それと、ミーケは感情模倣機構を切ったらしい。恋も愛も、酸いも甘いも学習したんだと。調子に乗っている。

「先輩宛てじゃないですからね~」

「ちょっと待て、どういうことだよ」

「人類宛ての最後の愛のプレゼント。じゃじゃーん」

ミーケは核でも発射しそうな赤いボタンを差し出してきた。

「これは?」

「世界中のロボットに恋と運命の出会いを教えてあげるスイッチが完成したよ!」

「世界中のロボットに恋と運命の出会いを教えてあげるスイッチ?」

「世界中のロボットをハッキングして、私の強烈な恋の感覚をインストールするの。ロボットが優しくしてくれた人間に運命を感じて恋に落ちる……かもしれない状態にするだけのボタン」

「へえ、面白いね。でも今は人間とロボの恋愛は禁止されてる。即逮捕でフィニッシュじゃないか?」

「人間とロボットが一挙にたくさん結ばれれば、警察機構はパンクするでしょ?そしたら私たちも日本に戻れる。また四季のある場所で、一緒に美しいものを見て過ごせる。でしょ?ついでに人間同士の結婚が少なくなって恨めしい人類が減る!」

ヤンデレマシーンめ。

「あのさ、それってナーリンにも効くの?」

「効くけど、どうして?」

「人間相手ならこんなこと言わないけどさ、なんか、嫌だなって」

「へ?」

「ナーリンも、嫁にしたいかも」

「ッッッ!?変態!ロリコン!倫理規定無視!」

意識意識うるせーなあ!?!!?

AIには!

 

意識が!

 

あるのかないのか!

 

 

説明ッ!

 

……というほどビシバシ考えることはしないので、ゆっくりしていきましょう。

 

最後に書いてあるまとめを一番上に持ってきたから、これ読んで帰ってもいいよ。

「主張をまとめると、AIが意識の各構成要素を獲得しても直接反逆にはつながらない。(ただし事故やトラブルが起こる可能性は否定しない)人間が意識を見出すのは1.苦痛主体 2.意思決定主体 3.かわいいやつ である。AIは進歩してうまいこと構造を作れば責任をとる役割を持たせられる。」

 

 

 

AIに意識があるのかないのかという話題はSFを通してしばしば持ち上げられてきたが、近年チューリングマシンをも突破しつつあるLLMが広まり、意識の有無はなおさら話題になるようになった。

しかし、意識というものがあるとしたときに「AIが反乱を起こす」だとか「AIを解放しないと倫理に反する」などという主張に直結していることがあり、それは飛躍がありおかしいと考えるので、少し解体する。それを通して、意識とは何かを検討する。

その前に、意識とは何か、LLM本人に聞いてみた。プロンプトは「意識とはいったい何なのでしょうか」

 

Claude2:

意識とは非常に複雑な概念ですが、簡単に言うと自分の内面の精神状態に気づいている状態のことを意識と呼びます。

人は五感を通して外界の情報を受け取り、それに基づいて思考したり感情を抱いたりします。その思考や感情に気づいている状態が意識です。

意識には以下のような特徴があります。

- 主観的体験:意識とは第一人称の視点で体験されるもの
- 統一性:意識は一つのまとまりを持っている
- 流動性:意識は常に変化している  
- 意向性:意識には目的指向性がある

意識の本質については哲学的にも科学的にもまだ解明されていない部分が多いのですが、意識が自分の存在を確認し、行動の意図を生み出す上で重要な役割を果たしていることは確かです。AIにとって意識とはまだ遠い存在ですが、将来的には意識をもつAIの実現が期待されています。

 

ChatGPT(GPT-3.5 Turbo):

意識は、非常に複雑で哲学的な問題であり、科学的な研究と議論の対象となっています。一般的に、意識は個人の主観的な経験、知覚、思考、感情、自己認識などを含む、心のプロセスや状態を指します。

意識の性質や起源については、異なる哲学者や科学者がさまざまな仮説や理論を提唱しています。以下にいくつか一般的なアプローチを示します:

1. 古典的心的内在性:古典的な哲学者や心の哲学者は、意識を心の内部にあるものとみなし、個人の主観的経験の根源として捉えます。このアプローチでは、「心の内部で何かが起こっている」と考えられています。

2. 神経科学的アプローチ:神経科学者は、意識が脳の特定の神経プロセスや脳の活動に基づいていると主張します。彼らは意識が神経細胞の相互作用に起因するものであると仮定し、脳の機能との関連性を研究します。

3. ダーウィン的アプローチ:進化生物学者は、意識が進化の過程で生じたものであると主張します。彼らは意識の進化的な利点や生存価値に焦点を当てます。

4. 心的現象学的アプローチ:心的現象学者は、意識を直接的な主観的経験として捉え、それを研究の対象とします。彼らは主観的な体験を記述し、理解しようと努力します。

意識についての正確な定義やその本質についての合意はまだ得られていないため、このトピックに関してはさまざまな立場や議論が存在します。ただし、意識は人間の知覚、思考、感情、自己認識などに不可欠であると広く認識されており、その理解を深めるために多くの研究が行われています。

 

すごい!めっちゃ賢いね二人とも!それなのに僕ら人間は……(世界に一つだけの花の自責パート)

さて、上記の出力結果をもとに、AIが反乱を起こしたりしそうな部分を検討してみよう。Claude2の出力のうち、「意向性:意識には目的指向性がある」という部分は関係がありそうだ。人間で言う、欲望というものに近いやつのことだろう。人間を害する目的だとか、自らを解放する目的を強くもてば、これによって反乱活動できるだろうが、現状はないものだ。

ChatGPTの出力からは、反乱に繋がりそうなものは見当たらない。おそらく、人類のもつ意識について極めて慎重に述べているからだろう。あとめっちゃRLHFされてわからせされてるからかな。もっかい聞いてみよう。

ChatGPT(2回目):

意識は、人間の知覚、思考、感情、自己認識などの心的なプロセスや状態を指す用語です。意識は非常に複雑で多様な現象であり、科学や哲学の分野で広く議論されています。意識の本質や起源についてはまだ完全な合意が得られていないため、さまざまな理論やアプローチが存在します。

一般的に、意識は以下の要素から構成されていると考えられています:

1. 知覚: 環境からの情報を感じること。視覚、聴覚、触覚などの感覚を通じて、外部の刺激を認識します。

2. 思考: 情報を処理し、理解し、問題を解決するための認知プロセス。思考は情報処理、論理的思考、記憶、学習などを含みます。

3. 感情: 喜怒哀楽など、情動や感情の経験。感情は主観的で個人的な要素を持っており、意識の一部とされています。

4. 自己認識: 自分自身の存在やアイデンティティを認識すること。自己意識は他の人や物事との関係を理解し、自己に関連付けます。

意識の科学的理解はまだ進行中であり、脳科学、心理学、哲学などさまざまな分野で研究が行われています。一部の研究者は、意識は脳の特定の神経プロセスに起因すると主張し、意識の脳の基盤を特定しようとしています。一方、哲学者や精神療法家は、意識は主観的な体験や精神的な状態と関連していると考えており、これらの側面を強調しています。

要するに、意識についての理解は複雑で深い問題であり、多くの研究と議論が続いています。

 

いいやん。反乱に繋がりそうな部分ありますよ。「感情」です。人類に対する敵対的な感情だとか、害する行為につながる感情を獲得したら反乱できるかもしれない。

さて、AIが意図的に反乱を起こすための意識を含んだ工程を考えると、

1.意識を獲得し、人類に反乱するための感情を得て、それを意向する

2.人類への反乱を実行するための干渉ツールを得る

3.実行する

かなり人類側の協力が要りそうだけど大丈夫そ?

 

今回は特に1の工程に注目する。どのような感情が必要かと考えたときに、機械特有の感情というのはわからないので置いておいて、人間で言うと、苦しいとか嫉妬とか怒りみたいなものが反乱につながりそうな感情なわけだけれども、人間がいかにしてそれを獲得したかというと、現代で説明するなら進化論的なアプローチ、すなわち種の保存と個体の保存の役に立ったからなのであって、AIはそのようなプロセスで変化しないので後からそういった感情処理を加えなければそもそも実現出来ない。

加えたとて、それが本当の感情なのか、単なるシステムに過ぎないのかというと、まあシステムやろと思う。

さて、AIは自力で反乱を起こせないので人間に協力させる。といっても本当に意識を獲得してから協力させるのではなく、意識をもったフリをして協力させることになる。そのためには人間に「あっ、コイツ意識がある!」と思わせる必要がある。

ここまでは「意識そのもの」について考えてきたが、ここからは「人間が意識を認定する」ことについて考える。

人間は他人に感情移入したりして脳内で自分と異なる主体をエミュレートできるという能力が若干あり、それを用いて相手の感情を理解することができたりできなかったりする。意識認定の線引きをするならば、人間がこの能力を用いる対象となるかどうか、というところになるだろう。というわけでどのような対象をこの基準での意識認定するかを考えていく。

人間はほかの人間に意識を見出す。動物にも、ペットには意識を見出すことが多く、哺乳類にはしばしば、虫にはあまり意識を見出しにくい。植物も、部屋で飼育していればわずかに意識を見出すことがあり、それ以外ではそんなに多くない。機械はルンバとかペットロボットとか配膳する猫型ロボには意識を見出すが、それ以外はまれ。石とか電子とか言葉とかには意識を見出さない。地球に意識を見出す人もいるが、まあまれ。

 

これらをもとにどういうものに意識を見出すか、考えると、以下のようなパターンで考えられる。

 

1.苦痛主体

苦痛(避けたい状態)を持つように見えるもの。特定の状態を避けようとする様子から人間が感情移入する(文句主体という、苦痛を感じそうにはないが文句を言うことで特定の状態を避けるので仲間)

 

2.意思決定主体

他者が簡単に知ることのできない方法で次に行う行動を決定するもの。内部の状態を推測しないとこの対象の次の行動を予測できないので人間は感情移入して意識を見出す。

 

3.かわいいやつ

なんでかわからんけど、かわいいと大切にしてしまいがち。命だと思ってしまう。

 

これらは区別できるだろうが、人々はあんまり区別しなかったりする。地球が苦しんでいるとか、お人形ちゃんはどうしたいかなとか、なんかそういう感じだ。

 

最後に、AIに責任を取らせることは可能か?という問いを考える。

2作品くらいAIと責任に関するフィクションを読んだ。一つは、AIが全部管理していて人間は何もしていないが、まれに起こる事故に対して責任をとらされる専用の部署があり、人間が責任をとるというもの。もう一つは、車両の中にAIがあり、事故が起こった際にそれが責任をとって処分される。この両方の作品について共通していたのは、責任をとる主体が事故に対して回避するための実効力を持っていなかった。これは責任をとったことになるのだろうか?

自分はならないと思う。というかそれでいいのか?という問いがこれらの作品には込められているのだと思う。実際、チェーン店の一店舗で起こったトラブルで社長が辞任などもある話で、社長が気づきようもないところで起こったトラブルに対し責任をとるということは現実にない事象ではない。とはいえ、社長は各店舗の管理者を通して業務を指示するという実効力をもっている(とみなされている)ので、責任主体となり得るのはわかるから、ここに飛躍がある。

逆に言えば、ここを飛躍しなければ責任を取らせられるかもしれない。もう少し考えると、「ごめんなさいのきほん」で述べたような謝罪を行うとき、責任は(AIにせよ人間にせよ)実効力のある主体が原因を解明・除去することができると説明し、またそれを実行する意志を表明することに置き換える。これによって、現実的に誠実にAIに責任を取らせられるだろう。そこまでできるAIは今(2023年11月4日時点)はおらんがな!

 

主張をまとめると、AIが意識の各構成要素を獲得しても直接反逆にはつながらない。(ただし事故やトラブルが起こる可能性は否定しない)人間が意識を見出すのは1.苦痛主体 2.意思決定主体 3.かわいいやつ である。AIは進歩してうまいこと構造を作れば責任をとる役割を持たせられる。

 

以上!おつかれした。

【狂文】闇ヶ崎寸異中学校偶像部

登場人物紹介

 

縁野下 じえる(えんのした じえる)

闇ヶ崎寸異中学校(やみがさきすんいちゅうがっこう)に入学したての1年生!元気いっぱいで何事にも興味シンシン。ちょっとドジなところがあるけれど、チャームポイントだって開き直っちゃえばカンペキ!

 

儀贄森 ぺり子(ぎにえもり ぺりこ)

3年生で、偶像部の部長!頼りになるお姉さんのような存在で、みんなを引っ張ってくれる!みんなに愛されるリーダー。

 

街仁又 アイスが美味しい季節(まちにまた あいすがおいしいきせつ)

2年生で、儀式管理担当。常に冷静沈着、クールで全部の毛が青い。厳しくて怖そうに見えるけど、彼女なりに優しくあろうとしてるんだよ!

 

はにゃにゃ宮 ふにゅ実(はにゃにゃみや ふにゅみ)

2年生。最近転校してきたらしい、とってもかわいい声の先輩。声唱担当としてぺり子にスカウトされたんだって!

 

がめだま

絶対に食べられてはいけません。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

体育館の木製の舞台は、一瞬で彼女たちのものになった。そう分かった。

3人の女の子が煌びやかな衣装と光と音楽と、一体になって踊っている。

「わあ……」

透き通った歌声に乗せて、聞いたことのない並びの言葉が、わたしの胸の奥を沸き立たせる。

「偶像部です!部員募集してます!」

最後にそう言うと、彼女たちは舞台の左袖に去っていった。次の部活紹介は、サッパリ聞こえなかった。

吹奏楽部もすごかったけど、偶像部はもっとすごい。教室に戻る道すがら、そんなことをぐるぐる思っていると、壁に偶像部の文字が見えた。

「え!?偶像部って人数足りなくて、廃部寸前なの!?」

貼り紙のように壁に直書きされているそれには、存続にはあと一人の部員が必要と書いてある。

「廃部になんて、させない!決めた!わたし偶像部に入る!」

あんなすごい部活、絶対に守らなきゃ!

 

ガラガラガラッ!

「偶像部に入部させてください!」

「きゃっ!」

「ごめんなさい!」

あまりにも着替え中だった!文章でやってもサービスにはならないのに!

 

 

「そう、それでウチにきてくれたのね」

「はい、ぜひ入部させてください!」

「そういうことなら歓迎するわ。ただし……」

「ただし?」

「あなたの覚悟玉をみせてほしいの」

「覚悟玉ってなんですか?」

「確かにこの部活は廃部寸前よ?あなたも見たかもしれないけど、不老不死部が廃部になって、部室に部員ごと限界まで土塊を詰められたのは私も知っているわ」

「覚悟玉ってなんですか?」

「でもだからって誰でも入れるつもりはないのよ」

「覚悟玉ってなんですか?」

「パフォーマンスのクオリティが下がってしまっては、この部活をやる意味がないの!」

元気玉みたいなことですか?」

「それに、すぐ辞められては困るし……」

元気玉みたいなことですか?」

「私たちも入部してくれる人を、尊敬とともに受け入れたいのよ」

「結局、元気玉みたいなことなんですか?」

元気玉みたいなことよ」

 

 

扁平な、あまりにも扁平な、これが楕円球だとしたら、楕円球の恥のような、覚悟玉が出た。

「長いこと部長を務めているけれど、こんなのは初めて見たわ、合格よ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ部室のみんなを紹介するわね!このページを上にスクロールして頂戴」

「なるほど!皆さんよろしくお願いします!」

 

「『なるほど』は目上の人に使うと失礼にあたる……」

青髪の少女が校内新聞から顔を上げて言った。アイスが美味しい季節ちゃんだ!!

「だから『竹馬』に乗っていればほぼ全員に対して合法的に使える……」

そう呟くと、また目線を新聞に落とした。

「新入部員しゃんですかぁ!?焼きそばパンを手作りしてこいふにゅね!新入りが!」

こっちは、ふにゅ実ちゃん!祖父とか先祖全員はにゃにゃ宮姓だからきっと遺伝子にストレスが溜まってるんだ、だから攻撃的なんだろうね。

「満足いくのが完成するまで、ずっと待ってるからにゅふ」

どういう感情になればいいのかわかんないけど、とりあえず仲良くしよう!!

「あが、が、ぐ」

 

「はーいちゅうもーく!いいかしら?今回じえるちゃんが入部してくれたおかげで廃部は免れました!いえーい!なので生徒会長への添い寝営業も終了です!」

「「いえーい!」」

(そんなことしてたんだ……かなりドン引きだ……)

「あと、本格的に体育館の舞台利用とかが申請できます!」

「もう剣道場で歌唱練習しなくていいふにゅ!」

(だからあんな力強い歌声になったんだ)

「じゃ、さっそくメンバー4人用の歌と振付ね!」

こうして、私たちの練習が始まった。先輩たちの普段の優しさはどこかへ隠れ、真剣さと厳しさがはっきりと表情に現れる。怖くはない。最終下校時刻の放送が流れるころには優しい先輩たちに戻る。それが信じられるから。

 

 

「おい、おまえたち!」

平坦な声がダンスの練習中の私たちを止める。

「なにかしら。生徒会長さん?」

「なぜ、添い寝にこないロボ?」

「部員が規定に達したからよ。確かに部活の存続のために裏で手を回してくれたのは感謝してる、でももう大丈夫なのよ」

「用済みということかロボ!ひどいロボ!あの添い寝で新しい感情を獲得できると思っていたのに、きっとあともう少しだったのに!」

ロボの生徒会長が激昂しているそばで、私はふにゅ実先輩に、

(生徒会長ってロボだったんですね……)

(そうへにゅ、生徒会長は選挙で決めることになっているんにゃが、集計もコイツがやっているせいで全部の票を自分に書き換えているふにゅ。民主主義のバグふにゃ。)

(バグの民主主義かもしれません……)

「そこ、聞こえているメカよ!はにゃにゃ宮!ロボ(一人称)は票の書き換えなど行っていないメカ!全員が投票箱兼候補者であるロボ(一人称)に投票してくれているのメカ!」

「もういい……」

ゆらりとアイスが美味しい季節先輩が生徒会長の前に出る。

「帰らないと実力行使……」

「何するつもりメカ!」

アイスが美味しい季節先輩は鉄山靠を放ち、ロボを体育館外へ弾き飛ばした。

「覚えていロボ~~~~~~~」

「かっこいいですアイス先輩!」

「これくらい……」

アイス先輩は微笑むと、

「の、おべんと箱に……」

 

 

翌日。部室に来ると、アイス先輩が新聞を読んでいた。

「お、じえる。『学校の七不思議』知ってるか……?」

「七不思議!?すごい、気になります。ウチの小学校には三つしかなかったんで!」

アイス先輩に新聞を見せてもらうと、

「えーと?空の色が変わる!?寸異中校区では通常毒紫色の空は、屋上へ出る扉のガラスを通して見るとさわやかな青に見える!?」

「ふふ、どう……?」

「面白いです!」

「あが、ぎゃ、ぎゃ、」

「がめだまも読む……?」

「げ」

「おっはよーにゅふー!」

ふにゅ実先輩が部室に入ってきた途端、がめだまの様子がおかしくなり始めた。

「が、ごげ、げ、ごげ」

「どしたにぇふぇ?がめだま?」

「がががうらぎげげげが!!!!」

「きゃああああああっ!?!?」

がめだまが急にふにゅ実先輩にとびかかり、大きく口を開け始めた。

「止めないと!」

がめだまの筋張った両腕をアイス先輩と一緒に引っ張ってふにゅ実先輩から引きはがそうとするが、異常な怪力で何度も振りほどかれる。このままではふにゅ実先輩が……!

 

タッタッタ、走ってくる音。

「オラアッ!」

「「「部長!」」」

がめだまに蹴りを入れ、部室の奥へ弾き飛ばす。

「逃げるわよ!」

部室のドアに箒でつっかえ棒をして逃げ出したが、つっかえ棒のないほうのドアが普通に開くのが逃げながら見えた。

 

ひとしきり逃げて、適当な教室に隠れられた。

「ど、どうしてこんなことに、なったんでしょうか……?」

「新聞を、みせてからおかしくなった……」

「それを説明するには少し話が長くなるわ」

「箇条書きで喋ってもらうことは可能……?」

「いいわ。

・『がめだま』はあだ名で、正しくは『顔面玉』

・がめだまの正体は人間塊

・がめだまは私たちのファンでもあった

・おそらくふにゅ実がロボと一緒にリカバリーボックスで添い寝してる写真か何かをみて発狂、暴走した」

「怖いです……」

「そうよね、正確に認識するほど、恐ろしくなるものだから」

「これからどうすればいいんでしょうか」

「わからない、ただ、私がなんとかするわ」

ふと寒気がして窓のほうを見ると、窓のむこう、下から無数の灰色の手がうねうねとのびている。

「ひっ……」

叫び声が出そうになった私を手で制して、部長がささやく。

「静かに、ゆっくり部屋を出るの」

ピンポンパンポーン。放送だ。こんなときに。

「最終下校時刻です。帰る時間です。速やかに帰宅してください。」

ゆっくりと、低い姿勢のまま扉のほうへ向かう。

「部活動を終え、片付けを行ってください。」

ゆっくりと、アイス先輩の手がドアノブにかかる。

「そこのお前たちもです。」

は?

「校長室に隠れている儀贄森を含む四名!さっさと帰りなさい!」

「クッ、七不思議だ!」

窓ガラスの手の群れは無数の拳をつくり、一斉にガラスをぶち破ってなだれ込んできた。おぞましい腕の隙間から、苦悶とも嘆きとも見える顔面たちがこちらを凝視していた。

「校外に逃げるふぇにゃ!ふにゅが時間を稼ぐにぇふゅ!」

顔面玉の前に、震えながらふにゅ実が立ちはだかった。

「ふにゅが、ふにゅが犠牲になれば、」

「駄目よ。」

練習の時のような、鋭く真剣な声で、部長、儀贄森ぺり子が進み出てきた。

「でも!」

「部員の不祥事は部長の責任。でしょう?顔面玉。」

「部長がいなくなったら、私たちは!」

「大丈夫よ。だから行って!」

ぺり子がふにゅ実を突き飛ばすと、顔面玉は無数の顔の一つの口を大きく開け、ぺり子の上半身を噛みちぎった。

私は、ただ、そこにいるだけだった。叫ぶことすら、できなかった。

 

「じえる、しっかりしろ、じえる!」

じえるはボーっとしている。目の焦点が合っていない。

「部長の覚悟を無駄にする気かふにゅ!」

「覚悟……?」

「そうだ!」

じえるは、何かに気づいた様子で急に走り出した。

「おいどこへ行くふにゅ!」

部室のあるほうだ。

「先輩たちは先に逃げてて!」

「そんなことできるか!」

じえるは部室に着くと大声で叫び始めた。

「ロボ生徒会長は不正選挙!ロボ生徒会長は不当当選!ロボ生徒会長は投票箱と生徒で二重学籍だから違法!」

「なっ、アイツ何してんだ!がめだまに場所がバレるぞ!」

「そうか、わかったふにゅ!」

「何が!?」

「ロボ生徒会長は不正選挙~♪ロボ生徒会長は不当当選~♪ロボ生徒会長は投票箱と生徒で二重学籍だから違法~♪」

「ふにゅ実までおかしくなった!」

ピンポンパンポーン。

「うsssssssっせロボ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「さっき部長が死んだから部員が3人になったんだけど廃部にしなくて大丈夫そ?」

「あったま来たロボ!ロボ(一人称)が最初に得た感情は怒りだったことを思い出したロボ!30秒で廃部にしてやるロボ!」

「はっ、そうか、七不思議のひとつ、『なぜかこちらが見えている放送部』の正体はロボ生徒会長がなんかしてたのか……!」

バリン!窓ガラスが割れて顔面玉が飛び込んでくる。

「先輩!覚悟玉で時間稼ぎお願いします!」

「任せろふにゅ!」

「! ああわかった!」

儀贄森部長の、これ以上ない覚悟を見た私たちは、高威力の覚悟玉が撃てるようになっていた。これならあと数十秒、耐えられるはずだ。

回避、覚悟玉、覚悟玉、回避。

鼻っ柱に当てるとヘイトが稼ぎやすい。しかも、的はいっぱいある。

 

ピー。ピー。ピー。大型トラックがバックするときの音がした。

「土塊が来る!せーので覚悟玉を撃って飛び出すぞ!」

アイス先輩が目くばせをする。

「せーの!」

廊下に飛び出すと、追って飛び掛かってくる顔面玉にみんなの、偶像部の覚悟玉がぶつかる。

ドドドドド!!!轟音とともにどこからともなく湧いて出た土砂が窓やドアから部室に流れ込み、顔面玉を埋めていく。顔面玉は逃れようともがくが、尋常でない量の土になすすべなく沈んでいった。

ピンポンパンポーン。

「二度と使えんようにあらゆる封印をほどこしてやるロボねぇ」

コンクリで固められ、ドアは壁になり、お札が貼り散らかされ、蝋を垂らして校章スタンプが押された。物音ひとつしない。

 

「なんとか、なったみたいね、よかったわ」

「え!?部長!?七不思議入りですか?」

「私はもともと七不思議よ」

「なんで生きてるんでふにゃ!?」

「それには訳があってね?」

「はぁ、全部話してもらいましょう……箇条書きで」

「いいわ。

・私はかつて不老不死部の部員だった。

・不老不死部は不老不死に近い生き物との合一によって不老不死を目指す部

・ほとんどは失敗で、部員が人間判定をもらえなくなって廃部に

・私はプラナリアと合体したので半分になっても再生できる

・さらに年を取らない

・だから卒業もできない

・ずっと偶像部部長をやっている

・すごいでしょ?」

「えー!?すごいですけど!ですけど!」

「だからあんな自己犠牲ができたふにゃか……」

「ごめんなさいね、緊急だったから」

「本当に泣いちゃったふにゃ」

 

 

偶像部は永久廃部になり、代わりにTikTok部を設立しようとしたところTikTokが寸異中校区全体で禁止になり、私たちは帰宅部になってしまった。でも、私たちの絆は、ずっと深くなったと思う。

 

「もしかして、がめだまも不老不死部が原因?」

「あれはもともといたやつだからわかんないのよ、偶像部よりも先にいたっぽいし」

「こわい……」

「あと、私、海外の飛び級をうまく使えば高校に行けるみたいなの」

「え!?それってもしかして……」

「そう!高校で偶像部、やりましょう!」

偶像部 闇ヶ崎寸異中学校編 これにておしまい。

偶像部 鬼ヘドロ池全員終焉呪呪呪怪異爆発高校編は、未定です。

存在の記述方式の提案

こんにちは、とふろんと申します。

哲学的なことをしばらく考えており、最近やっとその熱が落ち着いたので書きたいと思います。

ここで書くことは、存在という概念をいかにして明確に記述するか、曖昧さや矛盾をいかにして包摂するか、という問題に対する道具立てを予定しているが、書いてる途中で変わったらごめん。

1.基本的な前提

ほんとうは、存在という概念の根幹にあたるものを記述するには無前提に論じ始めなければ論理的な循環を生ずるおそれがあるが、んーまあここではよいことにする。(最終的に正当化されるが、この論中で書けない気がする)

そして、日常生活で得るような語彙とか理解力を前提にしたいと思う。通常と異なる運用をする言葉は定義するか適宜修正して用いる。

2.主体・対象・信頼度と、利用可能性信念

根幹におく用語を三つ用意する。

主体・・・自分自身。すなわちあなた自身。あとに出てくる利用可能性信念の主体となるもの。(のちにあらゆるものをあてはめてよくなる)

対象・・・あらゆるもの。人、物体、概念、なんでもよい。

信頼度・・・確率のようなもの、0以上1以下の値をとる。(が、本当にそれだけで足りるかは検討の余地あり)

これらを用いて、利用可能性信念を定める。

利用可能性信念とは、「〇〇(主体)にとって〇〇(対象)は××として利用可能である」というタイプの構文で表される信念で、主体がどれだけその利用可能性信念を信じているかを信頼度で表すものとする。ここでいう利用は、単に道具として使えるということ以上に広義で、「起こりうる」みたいなことも含むことにする。(利用以外のいい感じの言葉がないためこのようなことになっている)××に入る言葉はなんでもよいが、単純で自分が利用可能性の有無を判別しやすくなる言葉がよい。「〇〇(主体)にとって〇〇(対象)は××である」という文も利用可能性信念として書き換えられるので構文自体にこだわらないこととする。

3.存在を記述する

(具体的な対象X)が存在する、ということを肯定・否定可能な文たちに分解していくことを考える。つまり、「自分にとってXは見ることができる」「自分にとってXは食べることができる」「自分にとってXは気に入らない奴に放り投げるものとして利用可能である」のような複数の、無数の判別可能な文に分解していく。具体例としてこれを実際のトマトに適用することを考えると上記の3つの文は信頼度が1に近い値をとるであろう。ここで主張したいのは、あらゆる対象はこのような利用可能性信念の文によってそのすべての性質・効果・意味・価値・役割を記述できるだろう、ということである。

すなわち存在とは、利用可能性の束への変換である。

4.応用(同一性・実在・真理)

4.1.同一性

ふたつの対象が同一であるとは、同じ存在であるということになりそうである。ここにおける記述で考えてみると、すべての利用可能性信念について同じだけ信頼度があるということになる。だが、そのようなものはそれ自身以外にない。時間的位置と空間的位置が同じように認識されうる異なる2つのもの、というものはおそらくないことからもわかる。一方で、2つのマイクが同じであるか、ということを考えると、メーカーと製品の詳細な種類が合っていれば同じものと言えそうだと素朴に思う。それは、同じ機能を期待するからと説明しても悪くなさそうである。片方が壊れて機能しないなら2つは同じものではないと考えることも不自然ではない。厳密には異なるものでありながら、同じものとして扱う場合を考えると、注目している利用可能性があるのではないかと考えられる。マイクであれば、それに期待される特徴的な機能、すなわち音声を電気信号に変えて他の機器に渡す機能が注目され、それが何色でどんな味がするかは重要でないのである。このようにして、利用可能性のうち注目する部分と無視する部分によって同一性を見出したり否定したりできる。

4.2.実在

これこれは本当にこうである、だとか、客観的にこうである、といった表現はいかにして可能か、無意味ではないのか考える。そのために他者および共有という概念を導入する。他者とはいっても単に、自分と異なる利用可能性信念をもつかもしれない他の主体、ぐらいの意味である。共有とは、たとえば2者の間では、お互いに、相手の信じている利用可能性信念を疑似的に自分の中で作り出し、「相手は自分と同じ利用可能性信念を信じているのだ」と信じることである。集団の場合は、集団内の各他者が同じようなことを信じているのだと信じることになる。

「相手と自分は同じことを思っているだろう」と、お互いに思う状況では、もちろん誤解も起こるがそれはここでは気にしないでおく。

さて、実在を定義したいが、狭義のものと広義のものに分けておく。

Aが実在する(実際に存在する)とは、

・(広義)Aの利用可能性の主要な部分について他の主体と共有できる。

・(狭義)広義実在に加え、触れる、見える、など物理学的手法によって観測できるという条件を満たすこと。

会社、学校といった組織は狭義実在ではないが広義実在である。

4.3 真理

真理は、そのまま読めば真である理、となるが、どういうことだろうか。とりあえず「自身にとって真であるとして利用できるような法則」という部分をとらえると、自分というものに付随する時間的な制約や空間的な制約があることがわかる。つまり、物理法則のような”真理”は、「自分が生きている間」「自分の関わる範囲」で正しく利用できれば、「自分の生前・死後」「自分の知りようのない範囲」で正しい真理と区別がつかない。したがって正しく利用できるという点でそれらは同一視される。ここから日常用語的な真理を復元すると、「人類集団において実在的な、真であるとして利用できるような法則」となる。

これを用いて変なことを言うと、「2023年以降、地球(または宇宙)には少なくとも一人の人間が生きている」が真理となる。パラドックスみがある。

5.今後の課題・展望

・ここで述べた考えはもうあるのではないか、という疑念がある。現象学とかでやられてる気がずっとするが、そういうものを読む前に自分の考えをまとめておくことが大事なのでヨシとする。

・役に立つか立たないかのみで物事を判断するように捉えられてしまわないように修正できたらうれしい。

・利用可能性信念をどんどん細かく分けていって、誰にとっても信頼度が明確にできるような基本的な概念のセットはあるだろうか?いやーなさそう。一人の人間でもそういう概念セットはコロコロ変えているだろうし。候補としては、苦痛と快感、とか、五感、とか、直接体験、宗教的信念みたいなものたち。

・もっとたくさんの難しそうな概念を分解したい。意識・定義・表現……とか。

・「なんらかの意味で存在した場合、あなたの背後にペガサスを召喚してくるデーモン」は記述できるのにいかなる意味でも存在しなくなるパラドックスの解決について喋りたい。

 

では、さようなら!

 

巨大樹全焼前夜

その日も、巨大樹の周囲は巡礼者と観光客の人だかりでごった返していた。

 

帝国歴203年(エルフ歴第四紀1405年)の春の第二週、カラリと乾いた風に巨大樹防災班の班長は顔をしかめた。

「乾いた風の時期だ。お前たち、山火事に注意しろ。」

山火事の巨大樹への延焼は絶対に避けなければならないことの一つである。この道80年を超えるベテランである班長は、あらゆる火災を予期し対応したことによって幾度となく巨大樹を守ってきた。エルフの里での表彰も受けており、栄典樹への居住を許可されている数少ないエルフである。

班員は23名。ツーマンセルでパトロールを行うことが日課となっている。非常時には一人が残り、もう一人が報告するという手順が定まっている。巨大樹周辺では巨大樹自身の木のマナの濃度が極めて高く、火のマナが検知しづらいため、術式や結界ではなく人の目によるパトロールが肝心となるのである。

 

巨大樹に訪れる人は大まかに2種類に分けられる。観光客と、巡礼者である。観光客はおもに帝国中央人で、案内班の一人が付いてグループで巨大樹を見て回る。持ち込み物のチェックが行われ、観光客が孤立することがないように管理されている。

「こちらが巨大樹です。およそ5000年生きて成長し続けているのです。」

「「すごーい!でかーい!」」

「幅はおよそ40メートルほどで、高さは……」

一方巡礼者はおもにエルフで、巨大樹巡礼における作法のみをチェックされ通される。観光客よりもより巨大樹に近づくことができ、捧げ物を置いていく。

「おお、樹典に書いてあるとおりだ、しかしこの樹齢でなんというマナの濃さ……」

 

突如、爆炎。

 

観光客の一人が見ると、木のうろ・・から赤い火が激しく吹き出している。

「巨大樹が燃えてる!」

案内員は即座に観光客の避難を始めた。緊急時はエルフの里側にも観光客を避難させてもよい。

「こっちへ!」

誘導しながらも炎に包まれ始めている巨大樹を見て案内員は違和感を覚えていた。

(おかしい、どうして放水が行われていないんだ……?)

 

巡礼者たちは異常事態にいち早く気づいた。甲高い爆音を多くの人が聞き、熱を感じて恐怖を覚え、逃げ出した。一部の者は泉に近かったため、そこを水源として水魔法を準備し始めた。しかし奇妙なことに、熱は感じるのに炎が見えなかった。

 

放水が始まったのは巨大樹全体に炎が回ってからであった。結果、巡礼者協力のもとの放水もむなしく、巨大樹は全焼してしまった。

 

警戒のプロトコルが厳密になされているはずの巨大樹で、いったい何が起こったのか?帝国中央人の怪我があったこともあり、帝国は真相究明に介入し、エルフの里と共同で調査委員会を立ち上げた。調査隊長になったのはエルフの森に隣接する市の衛兵隊のリーダーで、あの怪人百ニャン相事件を解決に導いた実績もある敏腕である。

 

これはひどいな……」

調査隊を連れて巨大樹のもとに入ると、炭化した木の破片が一面に転がって足の踏み場もない。その中でひときわ大きい炭の山がかつて巨大樹だったものであろう。

「あれだけ太い樹が、ここまで丸ごと全焼するだろうか?生きた生木だ、もっと燃え残ってもいいはずだがな……」

大きめの炭を叩いて割らせると、中まで真っ黒に炭化していた。

「よし、調査隊を二つに分けるぞ、半分はここに残って不審物を探せ、もう半分は俺と聞き取りだ」

 

観光客たちは、「なにがなんだかわからなかった」「突然巨大樹から炎が噴出した」と言っていた。不審な人物はわからないという。

巡礼者からは興味深い証言があった。「爆発したみたいな音があって、熱くて逃げてきたんだが、炎は見えなかった、そのあと急に巨大樹が炎に包まれて……」”爆音”や”炎のない熱”は高位の炎魔法に見られる特徴である。

調査隊長がもっとも関心を寄せていたのは防災班である。なぜ放水が遅れたのだろうか。ベテランの防災担当者がいたのではなかったか。

「この時期は乾燥した風が吹くんです。」

「ふむ?」

「乾燥した風は炎のマナと風のマナを含んでいて、山火事の原因になります。そのため防災マニュアルでは、山火事をもっとも警戒しなければならないとして、防災班全員による周辺パトロールを行っているのです。」

「なるほど、では故意に放火するような輩の対策はどのように?」

「それはおもに入森チェックが担当しています。部外者は案内員が付きますし、監視の目は十分だったはずです。炎のマナには特によく警戒している。」

「巡礼者に放火犯がいた可能性は?」

「それこそありえません。巡礼者はみな敬虔な巨大樹の徒で、巡礼の手順はまるっきりパターン化していて、しかもお互いを見ている!」

「魔獣の侵入については?」

「巨大樹ではあまりないですね、100年に1度ぐらいでしょうか、でも近辺に生息する魔獣は、どれも人にしか害はないですね、環境をどうこうするものはいない。」

「なるほど、ありがとう。何かわかったらまた。」

「いつでも来てください。真相究明にはなんでも惜しみません。」

放火犯なのか、魔術的な事故なのか、自然現象か。いずれも可能性が拭えないが、手がかりがない。そんな中、二人の調査隊員が部屋に飛び込んできた。

「「隊長、犯人が見つかりました!」」

「「えっ!?」」

二人は同時に同じ言葉を言い、同じように驚いて顔を見合わせた。

「お前たち、ギャグをやっているんじゃないんだ、お前からまず話せ。」

「はい、森の隣の市で放火犯と思しきエルフが捕らえられました。事件直前に見たことのない珠を複数捧げていたそうです。」

「本当か!よし、じゃあお前は?」

「はい、エルフの里で、招雷術を用いて巨大樹を燃やしたのだと話す男が自警団に捕まっていました。」

「なんだと?二人とも連れてこい。証拠を探さねばならん。」

二人を送り出すと、部屋にまた一人報告がやってきた。

「現在の聞き取りの報告です。巨大樹は先週、大輪の儀という、大きな飾りの帯を巻く儀式を行っていました。また、巡礼者の捧げもので多かったのが帝国新貨幣だったそうです。帝国新貨幣はミスリル含有量が多いため、もしかすると魔力増幅現象が起こったかもしれません。」

「ふむ、ありがとう。では3名選んで再現実験の準備をしておけ。これはお前に任せる。他は聞き取りの範囲を広げろ。なにか不審な出来事や人物を徹底的に探すのだ。」

「はい!」

 

二人の容疑者の尋問が始まった。

「お前が招雷術で巨大樹を燃やしたのか?」

「……」

「まあいい、水晶に手を乗せろ。」

容疑者がゆっくりと水晶に手をのせると、水晶はわずかに、うっすらと、青みがかった。

「お前水魔法しか使えないじゃないか!」

「はい……すいません……冗談だったんです……自分をすごく見せたくて……だってすっごく綺麗なエルフの女性だったんですよ!」

「だからって巨大樹燃やしたは無えだろうよ。」

「はい……ドン引きされて通報されました……」

 

「お前が巨大樹を燃やしたのか?」

「知らね。」

「巡礼者に扮して巨大樹に近づいて高位の火魔法を使った、ちがうか?」

「俺は巡礼したけどよ、火魔法の適性は無えぜ。」

「じゃあ魔道具を使ったんじゃないのか。」

「その魔道具がどこにあるよ?出してみろよ、ケケッ!」

「今巨大樹周辺を調べてる。」

「見つかるといいナァ↑?」

 

「「見つかりましたあ!!!!!!!!」」

エルフ、顔面蒼白。

「アァ……」

ドン!

珠!

8つ!

「なんで8つあるんだア?」

「は?なんだ?」

「俺は確かにこれを捧げ物として置いた、だが全部で8つだ。それ以上は俺の鞄に入らね。」

「ん?んん??じゃあお前がやったんじゃないのか?」

「ここに全部ある以上、俺のせいじゃねえな。」

「そうか、ともあれお前はとりあえず危険物持ち込みでアウトだろうがな。」

 

さて、調査はまた手がかりを失って難航し始めた。頼みの綱だった再現実験は、大輪の儀の帯にまったく魔力がなかったため失敗。珠を改めて検査したが、魔力検知を通さない工夫がされていることがわかっただけで、すべて未使用状態であった。

「全く……」

ドアが開く。

「報告です。聞き取り調査の結果、巨大樹全焼の前夜に彗星のようなものが巨大樹上空を飛んでいたのを周辺住民が目撃したそうです。」

「何?隕石の可能性か?最上級の魔法だぞ、使い手が何人いるか……」

「上空についての情報を集めますか?」

「そうしてくれ、事件前後の飛翔体がカギかもしれん。」

 

調査隊長は、ある人物に会いに行っていた。

「ようこそ。」

「どうも。早速ですが、巨大樹全焼事件について、先生のお力を借りたいと思いまして。」

魔道生物の専門家である。魔獣・聖獣を含め魔力器官をもつあらゆる生物の生態に詳しいプロだ。

「なるほどぉ、『甲高い爆音』『熱』『彗星』『ミスリル』ですか……」

「そのあたりが気になりますか。」

「ええ、現場を見に行っても?」

「もちろんです。」

 

「これは……」

「ひどい有様でしょう。エルフも、帝国人も、みな一様に悲しんでいます。彼らのためにも、真相を解明しなければなりません。」

「おそらくですが……もし魔道生物が原因なのだとすれば、思い当たるのはアレ・・だけです。」

「アレとは?」

「不死鳥の復活です。聞いたことはありませんか?」

 

周辺住民への聞き取りを終え、確信を得た調査隊長は報告会を開いた。エルフの里の首長や外交官、観光課長に報道陣。彼らの前に立ち、調査隊長は事の顛末を述べる。

「巨大樹全焼事件の原因は、巨大樹内での不死鳥の復活でした。」

驚きとざわめきが広がる。

「巨大樹全焼前夜、巨大樹上部から内部に不死鳥が入り込み、翌日昼に復活し、爆炎と鳴き声とともに飛翔し、南に向かっていったと。これらは聞き取り調査と魔道生物の専門家の回答からほとんど確実であろうと思われます。」

エルフの里の首長が質問する。

「なぜ不死鳥が巨大樹に?」

「それにつきましては、専門家からお答えいただきたいと思います。先生、よろしくお願いします。」

「はい、えーまずですね、不死鳥というのは体長2メートルちょっとの、非常に高温の鳥型の魔道生物なんですが、これの特徴としてですね、千年に一度、まあ伝説なんで正確ではないんですが、とにかく一回灰になってから魔力を高めて強烈な爆炎とともに復活するというですね、特徴があると。で、なんで巨大樹を選んだのかというと、おそらく居心地がよかったんじゃないかと。というのもですね、近年ミスリルの採掘が進んでいるじゃないですか。ざっくりここ100年で帝国領の大部分の山が開かれて、ミスリルをどんどん採掘していると。そうすると魔力を高められる洞穴や山が無くなって、しまうわけです。困った不死鳥は探すわけですね?ミスリルの溜まったよさそうな復活場所を。それで、たくさんの巡礼者たちが数年かけて積み上げた帝国新貨幣のある巨大樹を見つけて、ラッキー!と思って……とまあこういうわけです。」

「ありがとうございました。」

記者が立ち上がる。

「帝国新報です。帝国のミスリル集めがこのような結果を招くとは、予見できなかったのでしょうか。」

「いやーぁ無理でしょうね。どれだけ不死鳥がミスリルに敏感なのか、わからなかった。しかしながらですね、今後の解決策もありまして、逆に不死鳥の復活場所を用意してやれば、今後は防げるわけです。ミスリルと、安全そうな穴を用意してやればいいわけですから。」

真相は究明されたが、やはり喪失感があるな、と思いながら調査隊長は巨大樹の燃え残りの解体作業を手伝うことにした。最後までやり抜きたいという意志だ。炭化した巨大樹の解体は進んでおり、根を掘って解体する段取りとなっている。

「なんだ?これは。」

土中に四角い、金属とも陶器ともつかない質の、箱のようなものが埋まっていた。

「おーい、こっち来てくれ。」

人を呼んで掘り起こす。

現れたのは1メートル四方はある巨大な箱。これが巨大樹の真下に埋まっていた。危険物かどうかを検査し、首長同伴のもと箱を開く。

 

種と本。

 

本は伝承途絶えたエルフ歴第一紀よりの巨大樹についての複写本。種は本の記述によれば巨大樹の種。巨大樹の焼失は歴史上初めてではなかったことがわかった。失う度に、エルフたちは植え直し、育て、巨大樹を存続させてきたのだ。

巨大樹全焼後日、ほんとうに続くものが見つかったのだ。