「助けて!理不尽マーーン!」
地上から幼い子供の声がする。
直立で腕を前に伸ばした姿勢で空を飛んでいる理不尽マンは、今しも連れ去られそうになっている一人の少年に気がついた!
「クソっ、早くしろ、車を出せ!」
子供は誘拐犯により車内に引き込まれ、車は走り出した。タイヤが砂煙を巻き上げる。しかし……
「おい進んでねえぞ!どうなってる!」
「アクセル踏んでるけど進まねえんだ!」
誘拐犯たちは周りをキョロキョロ見回す。なんと車体の後方に理不尽マンの姿が!彼は片手でアクセル全開の車を引き留めていたのだ!
「理不尽開錠!」
彼は不思議な力で後方ドアのロックを開け、片手で少年を助け出した!
「もう大丈夫だよ」
理不尽マンは少年に優しく微笑みかけ、車をつかんでいた手を放す。急加速した車はコントロールを失い、しゃらくせえ名前のパン屋に突っ込んで止まった。
後日、誘拐犯としゃらくせえ名前のパン屋の名付け親は捕まり、一件落着となった。
理不尽マン。理不尽あるところに現れ、個人的思想に基づいて颯爽と解決する超法規超物理のヒーロー。彼は今日もゆく。
「お見舞いに来たよ」
若い男がオレンジ色のカーネーションの花束を持って病室に入ってくる。
「フン、お前か」
先に答えたのは、ベッドにいる恋人ではなく、その父親だった。
「お義父さん、こんにちは」
「そう呼ばれる筋合いはない」
「ちょっと、やめてよ、せっかく来てくれたのに」
どうやら父親は若い男が気に入らず、結婚に反対しているようだ。
「それになんだ?この花は、キクじゃないか、キクは仏花だぞ?」
「いえ、これはカーネーションで」
父親は口答えされてカッとなったのか、男から花束を奪い取り、男に叩きつけた。
「こんなものを娘に近づけるな」
「どんなものだって?」
病室にもう一人の影。
理不尽マンである!
「理不尽フィンガー!」
理不尽マンは素早く父親に近づくと、その指を眼球と眼窩の隙間に滑り込ませ、視神経に直接不思議パワーを注ぎ込んだ!
人間は目に指を突っ込まれると静止するようで、父親は理不尽マンの指が抜かれるまでの3秒、微動だにしなかった。理不尽マンはそれだけして立ち去った。
父親は、黙ったままゆっくりと床に這いつくばり、散らばったカーネーションをあつめて、
「すまない、私が間違っていた。許してくれ。」
落ち着いてゆっくりそう言うと、病室を出ようとした。
若い男はすぐに、
「大丈夫ですよ、お義父さん。」
と言った。
男子生徒が掃除道具入れのロッカーに押し込められ、外から叩かれ蹴られ、けたたましい音を鳴らしている。いじめっ子たちはそれを楽しむように笑っている。
「悔しかったら出て来いよ!」
「悔しくなくても出てやるぜ」
理不尽マンが出てきた。さっきの男子生徒と入れ替わっていたのだ!
「自責の念光線!」
いじめっ子たちは男子生徒にした仕打ちを思い出し、良心の呵責に耐えかねて転げまわり自らを殴打し始めた。
理不尽マンは教室の外にいた先ほどの男子生徒に会いにいくと、優しく話しかけた。
「もういじめられたりしないよ」
「でも、ぼく……やっぱり怖い……」
「じゃあ、強く生きるおまじないをかけてあげよう」
そう言うと、理不尽マンは男子生徒の両肩に手を乗せると、
「理不尽治癒!」
男子生徒の心の中に深く突き刺さっていた苦しい体験は急速に溶かされ、まるで本で読んだ知識のような、他人事のように感じられて、不安がほぐされていった。
「ありがとう、理不尽マン」
理不尽マンは、純朴な感謝の言葉が大好きだ。
理不尽マン♪理不尽マン♪理不尽マンは今日もゆく♪
弱い者がつぶれぬように♪強者の無理を通さぬように♪
理不尽マン♪理不尽マン♪
自分の理不尽だけ~は、許す~♪
理不尽マン♪理不尽マン♪
ゆけゆけ適度に♪理不尽マ~ン♪
変なクレーム、ヤバい客、電車でのトラブル。すべてを解決した理不尽マンは飛びながら物思いにふけっていた。
夕焼けに街が染まり、街の人たちが理不尽マンの姿を見て集まってくる。
「ありがと~~~」
住民たちの声が響く。
「黙れぇっっ!!!!!!」
理不尽マンの今日イチのデカい声がこだまする。
「俺だってこんな……」
理不尽マンは、この比較的平和な現代において、絶対悪のない社会において、正義の基準になる自信がないのだ。
ゆけ、ゆけ、理不尽マン。スズメを蘇生したら倫理委員会にめっちゃ怒られて蘇生禁止になった男、理不尽マン。