ある晩、ニュートンは月を眺めていた。
そこへ、一人の少年がやってきた。
やせた、すこし貧しそうに見える少年であった。
「月って、無いと思います。」
「ほう、それはどうして?」
「あんな輝くものは、夜が怖い人間の見ている幻なんだと思います。」
ニュートンは、少年に一つ講義をしてやろうと思った。
少年に、自らが発見した万有引力の法則を、とことんかみ砕いて説明した。
月の引力と潮の満ち引きに関しての独自の研究も交えた。
少年はよく聞き、よく質問し、よく考えたふうであった。
そのうえで、月についてはやはり悩む様子であった。
「そうか、では、」
ニュートンは懐中から小ぶりなリンゴを取り出して、少年の手を包むようにして渡すと、そのまま、
「つまりだね、月は、このリンゴと同じように存在するのだよ。」
少年は、リンゴをまじまじと見て、それから月を見て。
リンゴをひとくち齧った。
「月はたべれないし、やっぱり無いと思う。」
ニュートンは、
「確かにそうだ。」
と言って笑った。