登場人物紹介
縁野下 じえる(えんのした じえる)
闇ヶ崎寸異中学校(やみがさきすんいちゅうがっこう)に入学したての1年生!元気いっぱいで何事にも興味シンシン。ちょっとドジなところがあるけれど、チャームポイントだって開き直っちゃえばカンペキ!
儀贄森 ぺり子(ぎにえもり ぺりこ)
3年生で、偶像部の部長!頼りになるお姉さんのような存在で、みんなを引っ張ってくれる!みんなに愛されるリーダー。
街仁又 アイスが美味しい季節(まちにまた あいすがおいしいきせつ)
2年生で、儀式管理担当。常に冷静沈着、クールで全部の毛が青い。厳しくて怖そうに見えるけど、彼女なりに優しくあろうとしてるんだよ!
2年生。最近転校してきたらしい、とってもかわいい声の先輩。声唱担当としてぺり子にスカウトされたんだって!
がめだま
絶対に食べられてはいけません。
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体育館の木製の舞台は、一瞬で彼女たちのものになった。そう分かった。
3人の女の子が煌びやかな衣装と光と音楽と、一体になって踊っている。
「わあ……」
透き通った歌声に乗せて、聞いたことのない並びの言葉が、わたしの胸の奥を沸き立たせる。
「偶像部です!部員募集してます!」
最後にそう言うと、彼女たちは舞台の左袖に去っていった。次の部活紹介は、サッパリ聞こえなかった。
吹奏楽部もすごかったけど、偶像部はもっとすごい。教室に戻る道すがら、そんなことをぐるぐる思っていると、壁に偶像部の文字が見えた。
「え!?偶像部って人数足りなくて、廃部寸前なの!?」
貼り紙のように壁に直書きされているそれには、存続にはあと一人の部員が必要と書いてある。
「廃部になんて、させない!決めた!わたし偶像部に入る!」
あんなすごい部活、絶対に守らなきゃ!
ガラガラガラッ!
「偶像部に入部させてください!」
「きゃっ!」
「ごめんなさい!」
あまりにも着替え中だった!文章でやってもサービスにはならないのに!
「そう、それでウチにきてくれたのね」
「はい、ぜひ入部させてください!」
「そういうことなら歓迎するわ。ただし……」
「ただし?」
「あなたの覚悟玉をみせてほしいの」
「覚悟玉ってなんですか?」
「確かにこの部活は廃部寸前よ?あなたも見たかもしれないけど、不老不死部が廃部になって、部室に部員ごと限界まで土塊を詰められたのは私も知っているわ」
「覚悟玉ってなんですか?」
「でもだからって誰でも入れるつもりはないのよ」
「覚悟玉ってなんですか?」
「パフォーマンスのクオリティが下がってしまっては、この部活をやる意味がないの!」
「元気玉みたいなことですか?」
「それに、すぐ辞められては困るし……」
「元気玉みたいなことですか?」
「私たちも入部してくれる人を、尊敬とともに受け入れたいのよ」
「結局、元気玉みたいなことなんですか?」
「元気玉みたいなことよ」
扁平な、あまりにも扁平な、これが楕円球だとしたら、楕円球の恥のような、覚悟玉が出た。
「長いこと部長を務めているけれど、こんなのは初めて見たわ、合格よ」
「ありがとうございます!」
「じゃあ部室のみんなを紹介するわね!このページを上にスクロールして頂戴」
「なるほど!皆さんよろしくお願いします!」
「『なるほど』は目上の人に使うと失礼にあたる……」
青髪の少女が校内新聞から顔を上げて言った。アイスが美味しい季節ちゃんだ!!
「だから『竹馬』に乗っていればほぼ全員に対して合法的に使える……」
そう呟くと、また目線を新聞に落とした。
「新入部員しゃんですかぁ!?焼きそばパンを手作りしてこいふにゅね!新入りが!」
こっちは、ふにゅ実ちゃん!祖父とか先祖全員はにゃにゃ宮姓だからきっと遺伝子にストレスが溜まってるんだ、だから攻撃的なんだろうね。
「満足いくのが完成するまで、ずっと待ってるからにゅふ」
どういう感情になればいいのかわかんないけど、とりあえず仲良くしよう!!
「あが、が、ぐ」
「はーいちゅうもーく!いいかしら?今回じえるちゃんが入部してくれたおかげで廃部は免れました!いえーい!なので生徒会長への添い寝営業も終了です!」
「「いえーい!」」
(そんなことしてたんだ……かなりドン引きだ……)
「あと、本格的に体育館の舞台利用とかが申請できます!」
「もう剣道場で歌唱練習しなくていいふにゅ!」
(だからあんな力強い歌声になったんだ)
「じゃ、さっそくメンバー4人用の歌と振付ね!」
こうして、私たちの練習が始まった。先輩たちの普段の優しさはどこかへ隠れ、真剣さと厳しさがはっきりと表情に現れる。怖くはない。最終下校時刻の放送が流れるころには優しい先輩たちに戻る。それが信じられるから。
「おい、おまえたち!」
平坦な声がダンスの練習中の私たちを止める。
「なにかしら。生徒会長さん?」
「なぜ、添い寝にこないロボ?」
「部員が規定に達したからよ。確かに部活の存続のために裏で手を回してくれたのは感謝してる、でももう大丈夫なのよ」
「用済みということかロボ!ひどいロボ!あの添い寝で新しい感情を獲得できると思っていたのに、きっとあともう少しだったのに!」
ロボの生徒会長が激昂しているそばで、私はふにゅ実先輩に、
(生徒会長ってロボだったんですね……)
(そうへにゅ、生徒会長は選挙で決めることになっているんにゃが、集計もコイツがやっているせいで全部の票を自分に書き換えているふにゅ。民主主義のバグふにゃ。)
(バグの民主主義かもしれません……)
「そこ、聞こえているメカよ!はにゃにゃ宮!ロボ(一人称)は票の書き換えなど行っていないメカ!全員が投票箱兼候補者であるロボ(一人称)に投票してくれているのメカ!」
「もういい……」
ゆらりとアイスが美味しい季節先輩が生徒会長の前に出る。
「帰らないと実力行使……」
「何するつもりメカ!」
アイスが美味しい季節先輩は鉄山靠を放ち、ロボを体育館外へ弾き飛ばした。
「覚えていロボ~~~~~~~」
「かっこいいですアイス先輩!」
「これくらい……」
アイス先輩は微笑むと、
「の、おべんと箱に……」
翌日。部室に来ると、アイス先輩が新聞を読んでいた。
「お、じえる。『学校の七不思議』知ってるか……?」
「七不思議!?すごい、気になります。ウチの小学校には三つしかなかったんで!」
アイス先輩に新聞を見せてもらうと、
「えーと?空の色が変わる!?寸異中校区では通常毒紫色の空は、屋上へ出る扉のガラスを通して見るとさわやかな青に見える!?」
「ふふ、どう……?」
「面白いです!」
「あが、ぎゃ、ぎゃ、」
「がめだまも読む……?」
「げ」
「おっはよーにゅふー!」
ふにゅ実先輩が部室に入ってきた途端、がめだまの様子がおかしくなり始めた。
「が、ごげ、げ、ごげ」
「どしたにぇふぇ?がめだま?」
「がががうらぎげげげが!!!!」
「きゃああああああっ!?!?」
がめだまが急にふにゅ実先輩にとびかかり、大きく口を開け始めた。
「止めないと!」
がめだまの筋張った両腕をアイス先輩と一緒に引っ張ってふにゅ実先輩から引きはがそうとするが、異常な怪力で何度も振りほどかれる。このままではふにゅ実先輩が……!
タッタッタ、走ってくる音。
「オラアッ!」
「「「部長!」」」
がめだまに蹴りを入れ、部室の奥へ弾き飛ばす。
「逃げるわよ!」
部室のドアに箒でつっかえ棒をして逃げ出したが、つっかえ棒のないほうのドアが普通に開くのが逃げながら見えた。
ひとしきり逃げて、適当な教室に隠れられた。
「ど、どうしてこんなことに、なったんでしょうか……?」
「新聞を、みせてからおかしくなった……」
「それを説明するには少し話が長くなるわ」
「箇条書きで喋ってもらうことは可能……?」
「いいわ。
・『がめだま』はあだ名で、正しくは『顔面玉』
・がめだまの正体は人間塊
・がめだまは私たちのファンでもあった
・おそらくふにゅ実がロボと一緒にリカバリーボックスで添い寝してる写真か何かをみて発狂、暴走した」
「怖いです……」
「そうよね、正確に認識するほど、恐ろしくなるものだから」
「これからどうすればいいんでしょうか」
「わからない、ただ、私がなんとかするわ」
ふと寒気がして窓のほうを見ると、窓のむこう、下から無数の灰色の手がうねうねとのびている。
「ひっ……」
叫び声が出そうになった私を手で制して、部長がささやく。
「静かに、ゆっくり部屋を出るの」
ピンポンパンポーン。放送だ。こんなときに。
「最終下校時刻です。帰る時間です。速やかに帰宅してください。」
ゆっくりと、低い姿勢のまま扉のほうへ向かう。
「部活動を終え、片付けを行ってください。」
ゆっくりと、アイス先輩の手がドアノブにかかる。
「そこのお前たちもです。」
は?
「校長室に隠れている儀贄森を含む四名!さっさと帰りなさい!」
「クッ、七不思議だ!」
窓ガラスの手の群れは無数の拳をつくり、一斉にガラスをぶち破ってなだれ込んできた。おぞましい腕の隙間から、苦悶とも嘆きとも見える顔面たちがこちらを凝視していた。
「校外に逃げるふぇにゃ!ふにゅが時間を稼ぐにぇふゅ!」
顔面玉の前に、震えながらふにゅ実が立ちはだかった。
「ふにゅが、ふにゅが犠牲になれば、」
「駄目よ。」
練習の時のような、鋭く真剣な声で、部長、儀贄森ぺり子が進み出てきた。
「でも!」
「部員の不祥事は部長の責任。でしょう?顔面玉。」
「部長がいなくなったら、私たちは!」
「大丈夫よ。だから行って!」
ぺり子がふにゅ実を突き飛ばすと、顔面玉は無数の顔の一つの口を大きく開け、ぺり子の上半身を噛みちぎった。
私は、ただ、そこにいるだけだった。叫ぶことすら、できなかった。
「じえる、しっかりしろ、じえる!」
じえるはボーっとしている。目の焦点が合っていない。
「部長の覚悟を無駄にする気かふにゅ!」
「覚悟……?」
「そうだ!」
じえるは、何かに気づいた様子で急に走り出した。
「おいどこへ行くふにゅ!」
部室のあるほうだ。
「先輩たちは先に逃げてて!」
「そんなことできるか!」
じえるは部室に着くと大声で叫び始めた。
「ロボ生徒会長は不正選挙!ロボ生徒会長は不当当選!ロボ生徒会長は投票箱と生徒で二重学籍だから違法!」
「なっ、アイツ何してんだ!がめだまに場所がバレるぞ!」
「そうか、わかったふにゅ!」
「何が!?」
「ロボ生徒会長は不正選挙~♪ロボ生徒会長は不当当選~♪ロボ生徒会長は投票箱と生徒で二重学籍だから違法~♪」
「ふにゅ実までおかしくなった!」
ピンポンパンポーン。
「うsssssssっせロボ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「さっき部長が死んだから部員が3人になったんだけど廃部にしなくて大丈夫そ?」
「あったま来たロボ!ロボ(一人称)が最初に得た感情は怒りだったことを思い出したロボ!30秒で廃部にしてやるロボ!」
「はっ、そうか、七不思議のひとつ、『なぜかこちらが見えている放送部』の正体はロボ生徒会長がなんかしてたのか……!」
バリン!窓ガラスが割れて顔面玉が飛び込んでくる。
「先輩!覚悟玉で時間稼ぎお願いします!」
「任せろふにゅ!」
「! ああわかった!」
儀贄森部長の、これ以上ない覚悟を見た私たちは、高威力の覚悟玉が撃てるようになっていた。これならあと数十秒、耐えられるはずだ。
回避、覚悟玉、覚悟玉、回避。
鼻っ柱に当てるとヘイトが稼ぎやすい。しかも、的はいっぱいある。
ピー。ピー。ピー。大型トラックがバックするときの音がした。
「土塊が来る!せーので覚悟玉を撃って飛び出すぞ!」
アイス先輩が目くばせをする。
「せーの!」
廊下に飛び出すと、追って飛び掛かってくる顔面玉にみんなの、偶像部の覚悟玉がぶつかる。
ドドドドド!!!轟音とともにどこからともなく湧いて出た土砂が窓やドアから部室に流れ込み、顔面玉を埋めていく。顔面玉は逃れようともがくが、尋常でない量の土になすすべなく沈んでいった。
ピンポンパンポーン。
「二度と使えんようにあらゆる封印をほどこしてやるロボねぇ」
コンクリで固められ、ドアは壁になり、お札が貼り散らかされ、蝋を垂らして校章スタンプが押された。物音ひとつしない。
「なんとか、なったみたいね、よかったわ」
「え!?部長!?七不思議入りですか?」
「私はもともと七不思議よ」
「なんで生きてるんでふにゃ!?」
「それには訳があってね?」
「はぁ、全部話してもらいましょう……箇条書きで」
「いいわ。
・私はかつて不老不死部の部員だった。
・不老不死部は不老不死に近い生き物との合一によって不老不死を目指す部
・ほとんどは失敗で、部員が人間判定をもらえなくなって廃部に
・私はプラナリアと合体したので半分になっても再生できる
・さらに年を取らない
・だから卒業もできない
・ずっと偶像部部長をやっている
・すごいでしょ?」
「えー!?すごいですけど!ですけど!」
「だからあんな自己犠牲ができたふにゃか……」
「ごめんなさいね、緊急だったから」
「本当に泣いちゃったふにゃ」
偶像部は永久廃部になり、代わりにTikTok部を設立しようとしたところTikTokが寸異中校区全体で禁止になり、私たちは帰宅部になってしまった。でも、私たちの絆は、ずっと深くなったと思う。
「もしかして、がめだまも不老不死部が原因?」
「あれはもともといたやつだからわかんないのよ、偶像部よりも先にいたっぽいし」
「こわい……」
「あと、私、海外の飛び級をうまく使えば高校に行けるみたいなの」
「え!?それってもしかして……」
「そう!高校で偶像部、やりましょう!」
偶像部 闇ヶ崎寸異中学校編 これにておしまい。
偶像部 鬼ヘドロ池全員終焉呪呪呪怪異爆発高校編は、未定です。