【怪奇譚】待機列

一昨日やっと引っ越しが終わって、今日は近辺を散歩しようと思い立ったんですよ。この街を好きになりたくて。

家を出てすぐの道路を東にずっと行くと、浅い水路が流れているんです。水もきれいだし、夏になると子供たちとかが遊ぶんじゃないかな、と想像してみるんです。

大通りに出て、しばらく北に進んでから、少し細い道に入ってみたら、個人経営の飲食店がずらずらと並ぶいい雰囲気。たぶん、店主同士でここのカフェとかに集まったりして、仲良く喋ったりなんかしてるのかな。全部想像ですけど。

更に狭い道に入ると、薄暗くなってしまった。周りはシャッター、室外機、ダクト。路地裏の排斥感になんだか怖くなって、でもそこで見つけたんです。

1、2、3、4、5、6人。店内にいたらもっとかもしれない。人の列ができているんですよ。ああ!これは!隠れた名店というやつだ、そう思って、場所を覚えるようにして帰りました。

翌日、見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

その次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

それで気づいたのは、並んでる人たち、同じ人ばっかりなんです。

また見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

並び順も同じみたいなんです。スーツの男、ベージュのおばさん、若い男、ポケットの多いチョッキのおじいさん、30代くらいの女性、オレンジ色の上着の男。

次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰るのをやめて、オレンジ色の上着の男に聞いてみたんです。「これ何の列ですか?」男はこちらを向くと、何も言わず、前を向いてしまいました。感じ悪いなあ、と思ったんですけど、顎で店のほうを示したようにも思ったので、そっちを見たら、店内は暗くて、ガラス窓の奥は何も見えませんでした。

並んでる人がいるのに、近づいて見るのもなあ、と思ったので、並ぶことにしました。

 

でも待っても待っても、進まないんです。

待っても待っても。

待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても

 

一昨日は帰ったんですけど、今日はもうちょっと待ってみます。

たぶん見えてくる