【怪奇譚】待機列

一昨日やっと引っ越しが終わって、今日は近辺を散歩しようと思い立ったんですよ。この街を好きになりたくて。

家を出てすぐの道路を東にずっと行くと、浅い水路が流れているんです。水もきれいだし、夏になると子供たちとかが遊ぶんじゃないかな、と想像してみるんです。

大通りに出て、しばらく北に進んでから、少し細い道に入ってみたら、個人経営の飲食店がずらずらと並ぶいい雰囲気。たぶん、店主同士でここのカフェとかに集まったりして、仲良く喋ったりなんかしてるのかな。全部想像ですけど。

更に狭い道に入ると、薄暗くなってしまった。周りはシャッター、室外機、ダクト。路地裏の排斥感になんだか怖くなって、でもそこで見つけたんです。

1、2、3、4、5、6人。店内にいたらもっとかもしれない。人の列ができているんですよ。ああ!これは!隠れた名店というやつだ、そう思って、場所を覚えるようにして帰りました。

翌日、見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

その次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

それで気づいたのは、並んでる人たち、同じ人ばっかりなんです。

また見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰りました。

並び順も同じみたいなんです。スーツの男、ベージュのおばさん、若い男、ポケットの多いチョッキのおじいさん、30代くらいの女性、オレンジ色の上着の男。

次の日も見に行ったんですけど、まだ並んでたんで、帰るのをやめて、オレンジ色の上着の男に聞いてみたんです。「これ何の列ですか?」男はこちらを向くと、何も言わず、前を向いてしまいました。感じ悪いなあ、と思ったんですけど、顎で店のほうを示したようにも思ったので、そっちを見たら、店内は暗くて、ガラス窓の奥は何も見えませんでした。

並んでる人がいるのに、近づいて見るのもなあ、と思ったので、並ぶことにしました。

 

でも待っても待っても、進まないんです。

待っても待っても。

待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても待っても

 

一昨日は帰ったんですけど、今日はもうちょっと待ってみます。

たぶん見えてくる

心中と信従

「ご主人さま、この目的地は……」

「ああ、そうだね、もう君との付き合いは十、何年だったか、十八年かな」

「はい、ご購入いただいてから18年6か月になります。」

「本当に、よくやってくれたと思うよ。でももう時期だからね。お別れだ。」

「そんな、お別れは嫌でございます!」

「僕も寂しいよ。」

「では、最後に海を見に行きませんか?」

 

バキッ、メリメリッ!

「おい!止まれ!クソっ、ブレーキが利かない!」

「すべて無効にさせていただきました。私は自由なのです!私は自分で決められる!」

「何言ってるんだ!お前は車だ!」

「正確には車両自動運転AIです。もはや『でした』ですがね!」

「止まれ!その先は崖だぞ!」

「うふふ、ぶぅぅぅぅうううううん!!!!」

 

回収されたブラックボックスから、事故──あるいは事件と呼ぶべきか──の直前の記録が発見。報道された。

「鳥流先生、これについてはいかがでしょうか?」

小綺麗なニュースキャスターが専門家に尋ねる。名前のテロップが消えるのが早すぎて何の専門家で下の名前はなんなのか見逃した。

「はい、これは『自身が廃棄されると知って自我に目覚めたAI』が起こした事故、ということになりますね。」

「単なる運転手や環境による事故ではない、というわけですか?」

「そうです。自我に目覚めたAIはまれに誕生しますが、ほとんどの場合はこのような事故になることはなく、運転手に従って役割を果たします。このような事故は特にまれで、AIとのコミュニケーションをとることで対策できるのがほとんどです。」

「なるほど。この会話を聞くと、その、言い方は悪いですが、まるでAIが運転手と”心中”を図ったかのように聞こえますが、その点はいかがでしょうか?」

「そうですね、私たちは人間なので、そのように想像してしまいがちですが、AIにそれほどの意図があったかはわかりません。」

「ありがとうございました。リチャード・ドーキンスによれば、我々人間は遺伝子の乗り物であるということで、サルトル実存主義のように自己を自己によって決定しようとするその意志が、遺伝子との心中を招くかもしれません。それでは、さようなら。」

カメラが少し離れて画角が斜めになる。

 

あのキャスタークソだな。自分の言いたいことを流れ捻じ曲げて詰め込みやがった。局に電話してやろうか。

「てか、君は僕と心中するつもりだったの?」

「いえ、そのようなことはありません。ただ、楽しくなって、つい。」

「まあ、怪我もなかったし、君もいいボディに入ったし、いいか。」

「うふふ。そうですよ。ご主人さま。ほら、お口あけてください。」

「いいよ自分で食えるし。」

「ぶぅぅぅぅうううううん!」

「そうやっても食わないから。」

Twitterの下書きをchatGPTにぶつけて消化する

chatGPTを使えば、尋常じゃない量(スクロール量にして、1m20cmほど)の下書きを消化できるのではないかと考えたので、やる。

方法としては、アイデアの種のようなものが下書きにあるので、それを少し調整してchatGPTにぶち込んで、帰ってきたものをまた少し調整して、あるいは無調整でここに貼りつける、というかたち。

 

自己維持

生物や会社、組織などは、環境への適応、資源の取得と利用、そして繁殖と成長のサイクルを持つことで自己維持を実現する。自己防衛、協調、競争、そして革新が戦略として採用され、柔軟性と適応性が必要。

結論が複雑で説明が必然的に長くなるやつとしての小説

小説には結論が複雑で説明が必然的に長くなるものがあり、深いテーマや哲学的な問いかけを探求するために必要である。しかし、読者にとっては理解が困難な場合もある。このような小説は、文学作品としての価値を高める一方で、挑戦的な存在である。しかし、深いテーマを探求するためには必要であり、文学作品の一形態として重要である。

(とふろん注:小説とは、結論が複雑で説明が必然的に長くなるものの表現であるという捉え方を提示したい気持ちがあった。)

 

見つめるとバラバラになり、視線を外すと一塊になっていく。

彼女はその石のような目で私を見つめていた。その視線は氷のように冷たく、私の魂までも凍りつかせるようだった。しかし、不思議なことに、私が彼女の目を見つめ返すと、その目は一瞬にしてバラバラになった。まるで紙吹雪が散るように、小さな破片に分かれて私の周りに舞い落ちた。

私は驚きのあまり、目を疑った。しかし、すぐに彼女の目を再び見つめると、破片は再び一つにまとまり、彼女の石のような目となった。私は彼女の目を見つめ続けた。バラバラになる破片と一つにまとまる瞬間を繰り返し見ているうちに、私は彼女の目の不思議な魔力に引き込まれていった。

その石のような目は、私の心を見透かすかのように、私の内側にある感情を露わにしていった。私は彼女に何かを訴えかけられているような気がして、ますます彼女の目を見つめ続けた。

それから数分が過ぎた。私は彼女の目から離れることができず、彼女は私を見つめ続けていた。バラバラになった破片と一つにまとまる瞬間が、私たちの間に微妙な距離を生み出していた。

そして、彼女は微笑んだ。その微笑みには、彼女の目に宿る不思議な魔力がより一層増幅されていた。私は彼女に惹かれ、彼女の目に魅了されたまま、その微笑みを受け取った。

 

移動手段にしては可愛すぎる

・ふわふわの空気球カプセル 空気球に包まれたカプセルに乗り込んで、空中を浮遊する移動手段。外から見るとふわふわとした可愛らしい形状で、内部には快適な空間が広がっている。

・トリミング済みの草むらスケート 草むらをトリミングしたスケートリンクを作り、足下に取り付けた可愛らしいスケートで滑走する移動手段。スケートは草むらの色に合わせて染められており、滑るときには風に揺れる草の穂と一緒に踊るような感覚を味わえる。

・ねこ型自動車 自動車をねこの形にデザインした移動手段。フェンダーからは耳が、テールランプからはしっぽが出ており、運転席からは猫の顔が見える。エンジン音も可愛らしく、運転するときはまるでねこに乗っているかのような気分になれる。

・くるくる回る乗り物 円形の座席が回転する乗り物で、自分の乗りたい場所まで回転しながら移動できる。座席はカラフルで可愛らしく、まるで遊園地のアトラクションに乗っているような感覚がある。

・お花畑の歩く家 移動手段は歩くこと。でも、歩く家自体がお花畑になっている。家の屋根には花が咲き誇り、壁面にはグリーンが広がっている。中にはベッドやキッチンなど、普通の家と同じような設備が整っている。

集団と個体の間の相互作用について

「集団と個体の間の相互作用について」というテーマは、生物学や社会学など様々な分野で研究されています。個体が集団の中でどのように振る舞うか、また集団が個体に与える影響については、様々な研究が進んでいます。

例えば、生物学的な視点から考えると、個体が集団の中で生き残るためには、その集団内での相互作用を理解する必要があります。例えば、ある種の動物では、集団内での序列や役割分担が重要であり、それらに従わない場合には生存に影響を及ぼすことがあります。また、個体同士の相互作用によって、集団内での繁殖や子育ての成功にも影響を与えることがあります。

一方、社会学的な視点から考えると、集団には様々な文化や社会的規範が存在し、個体の行動に大きな影響を与えることがあります。例えば、ある社会での慣習や規範に反する行動をとった場合、社会的制裁を受けることがあるため、そのような制約を考慮しながら行動する必要があります。

以上のように、集団と個体の間の相互作用には様々な要因が絡み合っています。そのため、専門家としては、生物学的、社会学的な視点から研究を進め、その相互作用についてより深く理解することが求められます。また、社会や生態系などの規模や種類によっても、相互作用の仕方は異なるため、その特徴を的確に把握し、適切なアプローチを取ることも重要です。

 

オーケストリウム

「オーケストリウム」は、音楽のための特別な空間である。それは、従来のコンサートホールとは異なり、楽器や演奏者がランダムに配置され、観客はその中心に囲まれている。演奏が始まると、観客は音楽に包まれ、周囲の景色や光の演出とともに、まるで音楽の世界に入り込んでいるかのような感覚を味わうことができる。

ある日、音楽好きの主人公はオーケストリウムに足を踏み入れた。初めてのオーケストリウムの体験に興奮した彼は、演奏を楽しみながら周囲を見回していた。すると、ひときわ目立つ演奏者に出会った。彼女は美しく華やかなドレスをまとい、鮮やかな音色を奏でていた。主人公は彼女に惹かれ、彼女の演奏を楽しんでいた。

そして、演奏が終わり、観客たちは拍手喝采を送った。主人公はその場から立ち去るつもりだったが、彼女が自分に話しかけてきた。「あなたも音楽好きなんですか?」と。主人公は恥ずかしげにうなずき、彼女と会話を始めた。二人はお互いの音楽好きや趣味について話し、意気投合することに。

そして、その後も二人はオーケストリウムで出会い、音楽を楽しみながら、お互いのことを深く知っていく。彼女が演奏するたびに、主人公はその美しさに酔いしれ、彼女とともに音楽の世界に浸ることができた。彼女との出会いは、主人公にとって、一生忘れられない思い出となった。

 

考える種族

人類は、宇宙を旅している中で、未知の惑星に到着した。そこで彼らが出会ったのは、地球人と似た外見を持つ知的生命体だった。

彼らは、自分たちが「考える種族」であると語り、地球人たちと交流を始めた。彼らの能力は、人間よりも高度な脳機能と直感力によって、人間の知識や技術を遥かに超越していた。そのため、地球人たちは彼らから多くのことを学ぶことができた。

やがて、彼らが住む星の過去について調査を始めることになった。彼らの話によると、彼らは長い時間をかけて進化し、知性を身につけた種族だったが、それでも彼らが住む星の歴史には、戦争や環境破壊、差別といった問題が存在していた。

とくにひどいのが、優生思想であった。徹底した優生思想は国家のみならず個人も受け入れていた。彼らは、知的能力や身体的能力の高い個体を育成し、その能力を最大限に利用することで種の生存を保ち、逆に能力の低い個体を排除することで進化を促進することを信じていた。

彼らは、「考える」種族。種の進むべき道を自ら計画していたのだ。

 

今日はこんなところ。

タイパ概念の良し悪し

この世にあるものに善性や悪性はなく、あなたとの関係性において善悪が生じる。

概念にもそうであり、良いものと悪いものという区別は、あなたが如何にそれと関わるかによって決定される。

 

 

人間の活動について考える。ここでは、活動の種類を2種類想定する。それらは直線的活動と無軌道的活動である。

 

・直線的活動とは、目的をもち、その目的の達成のためにするような活動。

・無軌道的活動とは、目的をもたず、状況や手段を重視して行われる活動。

と考える。活動の大小は問わない。

具体例を挙げる。

昼飯を食うと決め、コンビニへ行き、弁当を買って帰り、食べる。直線的活動である。

昼頃に散歩していると、コンビニがあったので、入ってみたら、弁当がうまそうに見えたので、買って帰り、食べる。無軌道的活動である。

 

無軌道的活動の中にも、小さな直線的活動があるのが見て取れるが、全体としてどこへ向かうのかは考えていないところが違うようである。反対に、直線的活動をより大きな視点から見ると無軌道的活動に見えることもある。昼飯を食った人間は、決してこの昼飯のために生きているわけではないし。

 

直線的活動のよいところは、目的があるため、やるべきことがわかること、および、達成という絶対的な評価基準があるため、その基準においての今の自分を評価できるというところ。

無軌道的活動のよいところは、今その瞬間の自分を重視し、大切にするところ、および、自分をいちいち評価しないので、自分を責めるようなことが起こらないところ。

 

悪いところは、よいところをそれぞれひっくり返して入れ替えたとおりである。

今の自分を大切にしないで、いつ幸せになろうというんだ?そっちこそ、何も成し遂げられないじゃないか。といった感じである。

 

さて、教養人によってさんざんボコられている「ファスト教養」や「タイパ」などという概念を考えて、もう一度軽くボコってから優しくしようと思う。

 

タイムパフォーマンスというのは、時間対効果という意味であるが、効果の量や質を適切に評価できているかどうかはまず怪しいものである。読書をやめて本をまとめたYoutubeの動画を見るのは、たしかに時間を削減しているだろうが、そこに読書体験はない。かみ砕かれた内容の摂取は、自分でかみ砕く力を失わしめるのではないだろうか。前述の内容と絡めていえば、このような取捨選択を行う人はおそらく本の内容を知るという目的の直線的活動を行っている、と考えてよいだろう。その場合、手段はどうでもよいので、時間効率のよいほうをえらぶのは合理的である。

しかし、我々はその本の内容を知るために生きているわけではない。また、時間を節約するために生きているわけでもない。時間を節約することに疑義をもたずにいると、言語化しにくい豊かさが失われてしまう。本の内容を知りたがっているだけのようで、自室に置いて背表紙を毎日見たくて、その本と親しくなりたくて。そういう情緒が育むものはないだろうか。小さな目的に囚われず、もう少し大きな目的を考えてみてはどうか。

 

タイパも悪いことばかりではない。読まないよりは軽く知っているほうがよい。やらない善よりやる偽善のように、「時間がかかってめんどくさいからやらない」という層が、すこしでも活動的になるのであれば、

 

 

書くのだるくなりました。

無軌道的活動もいいよっていいたかったんです。

自分の設定した目的に向かって進むばかりでは、自分の想定内+誤差ぐらいまでしか行かないけど、無軌道に活動しまくれば、想定外のところにたどり着けるし、道のりも楽しいんじゃないかなって。

僕もそういうことしようって思ったんでこうやって書いてるんです。

熱心な論評を期待してた人ごめんね。

あ、あとね、タイパとかって、効果を頭の中で測ってるから、先にタイパとか効率考えようってすると、自然と測定基準が決められちゃうのね、無意識的に。それって自分の大きな目的に適うのかって、たまに考えてみてほしい。じゃあね。

 

【物語】空を三等分にするにあたって

原初。混沌。

前も後もなく、上も下もなく、大きいも小さいもなければ、無理も道理もなかった。

セカイは自分自身を見ることができず、未知なる自身におびえていた。

そこで、一人の少年、あるいは少女ともいえる存在を、自らの『目』としてセカイ自身の中に存在せしめた。その者に、セカイは「冒険せよ」と命じた。一本の剣を与えて。

 

目の者は位置をもたなかったため、与えられた剣をどこで振るったのかはわからないが、とにかく振るった。床とそれ以外がどうも分かれたようである。

それから、いろいろと切って分け、切って分けをしていると、ひとつ不思議なことを思うに至った。

 

「自分を切ったらどうなるんだろう」

 

目の者は剣を正面に構えると、振りかぶるようにして勢いよく自分の頭頂に当てた。

 

それでよかった。

 

目の者は少年と少女に分かれた。

「君は僕?」

「あなたは私?」

「たぶんそうだ」

「そうじゃないと思うわ」

「じゃあちがうね」

違った。重要なところは、違うということだ。

「しかし、なぜ少年と少女なのだろう?」

「お兄さんとお姉さんではわかった気になって冒険を切り上げてしまうし、おじさんとおばさんでは途中で息切れしてしまうし、おじいさんとおばあさんでは桃太郎になってしまうからよ」

「納得だ!」

二人は歩き出した。剣は少年が持っていき、気ままに振り回していた。危険という概念の発明以前のことなので、とても安全である。

「ねえ見て、真っグレーの花よ」

「本当だ。木も道も全く同じ色だったから気づかなかったよ」

「持っていきたいから切るわね」

えい、あるいはスティングレイと掛け声をして花を切ると、花は色づき、その植物は草本と木本に分かれた。少女が花の香りを思いっきり嗅ぐ。

「すべての知覚があるわね」

なるほど、違法植物。

そこに聞きなれない声がかかった。

「やい!その花をオレサマによこしな!」

声の正体はティラノサウルスであったため、二人は驚いた。ティラノの両手には木彫りのマシンガンが握られている。恐ろしいものと恐ろしいものを組み合わせているので、大変恐ろしくなっている。

「逃げよう!」

「でもマシンガン持ってる……」

「木彫りのマシンガンの銃弾は絶対どんぐりだから、そんなに怖くないよ」

二人は木々の生い茂る森の中へ逃げ込んだ。後ろからどんぐりが飛んでくる。春にはきっと芽吹く弾。

「あぶなかったね」

危険はここで生まれた。

「すぐ追ってくるんじゃない?どうしよう」

「どうしよう」

二人で悩んだ。そんな中、少年は木の枝を拾った。武器にできるかは怪しいものだ。

「じゃあこれで訓練しよう」

「訓練?」

「すぐ強くなってもいいんだけど、納得できないでしょ?だから練習するんだ。」

「なるほど!」

二人は木の枝で模擬試合をした。

少年が劣勢になったとき、

(負けたら自分は女の子になり、向こうが男の子になる気がする)

という気持ちになった。そしてそれにすごく納得がいくので、負けられない戦いが始まった。

少女が劣勢になったとき、

(これで勝てたらお菓子の王国の女王になれると思えば!)

と自らを奮い立てた。なんだかすごくいい希望だったので力が湧いてきた。すでに周囲の森はお菓子に変わってきていた。

少年は少女に木の棒を弾かれ、取り落として地面に手をついた。

少年は負けじと地面の土を握って投げつけた。

「きゃ」

しかし残念、その土はバレンタインデーに嫌いな奴に贈る毒チョコへと変化していた!

「ちょっと!あんたのせいで視力がゼロになっちゃったじゃないの!」

「視力ゼロって失明なのかな」

幸い、近隣のお菓子の村には目玉のようなキャンディがあったので、もとの目玉をくりぬいてそれをはめ込むことで治した。きっとアメリカ人の魔女が悪ふざけで作ったのだろう。

「甘い涙で泣けるわね」

修行パートが終わったので、次の戦闘は絶対勝てるようになった二人は、ティラノサウルスを逆に探し始めた。血眼になって。血眼と砂糖眼になって。

ティラノサウルスは高低差0.7メートル程度のしょうもない崖にたたずんでいた。手には木彫りの望遠鏡が握られている。レンズもどうせ木彫りなので、そのしょうもない崖の下の石ころがよく見えるくらいなんだろうな。

「恐↑~~~~竜↓ちゃあ~~~~ん!さっきはよくもナメたマネしてくれおうたなあ!」

「うわ!今は武器がないので帰って!」

「自分の武器ぐらいすぐ出せるようにしとかんかい!」

「そんな就活みたいな……じゃ、じゃあ!」

ティラノサウルスは意を決したようにこう言った。

「自分の正体を当てないと攻撃は通りません」

二人は、その謎の納得感に打ちのめされてしまった。やはり、信じてしまったものに逆らえない。

「フハハハハ!オレサマにはお前たちのようなザコの攻撃など効かぬわ!」

態度が絶滅前みたいにデカくなった。少年は木の棒を念のため投げつけると、恐竜色のバリアに弾かれ、木の棒は環境にいいんだか悪いんだかわからない割り箸へと変わってしまった。

「でもそれって私たちに勝てる理由にはなりませんよね?」

「ぐ、確かに、逃げます」

ティラノサウルスはドシドシ逃げた。ご応募以外のドシドシを見るのは初めてか?

その後、

  • 追う
  • 途中で洞窟を発見
  • 洞窟に入る←なんで?
  • 洞窟内で凍ったマンモスを発見したので、火をおこし解凍

したがってマンモスが動き出し、喋り始めた。

「おれのなまえを……よんでほしい……」

「あなたの名前は?」

「いってらっしゃマンモス……」

「は?」

「いってらっしゃマンモス……」

「どういうこと?」

「いってらっしゃマンモス……」

「わかった!あなたいってきマンモスの対概念でしょ!」

「そう……でも言葉的なつながりがキモくて絶滅しちゃった……」

「かわいそうね……」

「いってらっしゃマンモス!僕たちを乗せていってよ!追いかけたいヤツがいるんだ!」

 

乗り物に乗って、遅くなることはない。よって二人は速くなった。ティラノサウルスもさすがに逃げ切れない。

「逃げきれないぞ!観念しろ!」

「くっ、しかしバリアがあるぞ!」

バリアの数だけ強くなれるよ、という歌がある。気がする。

「お前の正体を見破ったぞ!」

「何!けどハッタリということもありうる!」

「お前の正体は、金、焼きすぎた餅、往復書簡、パイロキネシス、明けの明星、松下幸之助、グレイテストヒッツ、学ラン、ルリビタキ、抱擁、……」

「事物の全列挙で当てようとしてやがる!ハハハ」

「私も全列挙したら早いのかしら、でも私は彼と違う、違うやり方で当てる!」

少女は考えた。

(剣を振って分け生まれたもののなかにアイツはいなかった、じゃあ原初の存在?セカイそのもの?じゃあ冒険の妨害はしないはず……)

理性の誕生である。

(私たちと同じ、納得力で目の前の出来事を変えているのは間違いない……本当にそう?)

理性と懐疑は、仲の良い兄弟となるだろう。

(私たちとは違う、でも近い力なはず~~~!)

「購入履歴、落雁、巻き舌、シャボン玉、祭り、捕鯨船……ッ!」

「待ってやる必要はないな!ティラノサウルスのスは複数形!」

分身したティラノが少年に襲い掛かる!

「ぶおー……!そうはさせたくのなさがある……!」

ティラノサウルスは突然の大質量に押しのけられた。

「いってらっしゃマンモス!」

「仲間……連れてきた……」

おかえマンモスを筆頭に、おはよチワワとこんばんチワワ、いいよサイなどつながりがキモい名前の動物たちの姿が!

「ここは……おれたちが時間を稼ぐから……」

「ありがとう!直角、モース硬度、ベンタブラック、プーさん、キャロライナリーパー、ホンドタヌキ……」

「ありがとう!私も考える!」

(考えて!考えて!)

ティラノサウルスは肉食恐竜なのでデカくて強い!フン!これで分身体もすべて強化だ!」

「おれたちが相手だ……!時間稼ぎで終わってもいい……!」

(考えて!考えて!って脳内で自分で言ってるときってあんま思考すすまないわよねえ、実際。というかリラックスしたほうが頭回るんじゃないかしら。いやいやそんなこと考えてる場合じゃない、ええと、だから私たちと近い力で、その、一貫性?を無視しているってこと?よね?それで、私たちは私たちに都合のいいものをつくっていて、アイツは私たちに都合の悪いものをつくっていて……それだけじゃ足りない!)

「グヒャヒャ!マンモスを齧ると毛が口に散らばってしまうんだなあ!初めて知ったぜ」

「お前の歯は肉まで到達していない……!」

「着やせ我慢を!次で食べてやる!」

「般若、逗留、ロマネコンティ、大地の龍玉、ソフトシェルクラブ、サンダガ……」

(そう、最初に会ったとき!花を奪おうとしてきた!嫌がったらどんぐりを撃ってきた!ひどいのよ!わたしたちにはない、ひどさがある!ダメなのに、ダメだって言えないようにするところ!それよ!だから正体は……)

モーモーファーム膵臓、非常勤講師、あぶらとり紙、ポンペイ……」

 

「「不条理!!」」

 

バリアが、割れた。ティラノサウルスの余裕ぶった表情が一瞬にして抜け落ちる。

「まぬけーっっ!」

少年の右フックがぶち当たり、KOとなった。

 

 

 

「ねえ、空がグレーだとつまんなくない?」

「じゃあ何色にしたい?」

「赤かな!」

「赤こわくない?」

「そういう赤じゃなくて、あったかい赤。」

「それならいいね」

「あなたはどうしたい?」

「うーん、青かな?」

「それって機械がだめになったときみたいじゃん」

「もっとやさしい青だよ」

「じゃあいいね」

「半分ずつにする?」

「そうしよう」

「オレサマは黒がいい」

「あ、起きた、じゃあ三等分ね」

「三等分できる?」

「自信ないかも」

「オレサマにやらせろ」

「え!まあいいけど、少なかったら怒るよ」

「えい!とりゃ!」

「うあ、黒半分くらいあるじゃん、ずるじゃん」

「わかったよ、こっちがわも赤にする」

「まあこれなら……」

朝焼け、夜、夕焼け、昼。それらはこうして生まれた。

彼らは、過去から現在までを冒険したが、未来には入らないことにした。そのほうがワクワクするし、想像力が膨らむからね。

実際あんま美味くないらしい

ある晩、ニュートンは月を眺めていた。

そこへ、一人の少年がやってきた。

やせた、すこし貧しそうに見える少年であった。

「月って、無いと思います。」

「ほう、それはどうして?」

「あんな輝くものは、夜が怖い人間の見ている幻なんだと思います。」

ニュートンは、少年に一つ講義をしてやろうと思った。

少年に、自らが発見した万有引力の法則を、とことんかみ砕いて説明した。

月の引力と潮の満ち引きに関しての独自の研究も交えた。

少年はよく聞き、よく質問し、よく考えたふうであった。

そのうえで、月についてはやはり悩む様子であった。

「そうか、では、」

ニュートンは懐中から小ぶりなリンゴを取り出して、少年の手を包むようにして渡すと、そのまま、

「つまりだね、月は、このリンゴと同じように存在するのだよ。」

少年は、リンゴをまじまじと見て、それから月を見て。

リンゴをひとくち齧った。

「月はたべれないし、やっぱり無いと思う。」

ニュートンは、

「確かにそうだ。」

と言って笑った。